[古森義久]【戦後日本外交全体を変える分岐点になった】~「イスラム国(ISIS)」による日本人人質事件~
古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)
「古森義久の内外透視」
イスラム教過激派テロ組織「イスラム国(ISIS)」による日本人人質事件は戦後の日本外交の全体を変える分岐点となるーー
イギリスの有力紙「フィナンシャル・タイムズ」がこんな予測を評論として発表した。この事件は日本にもはやどの国や組織とも友好を保とうとする「全方位外交」の終わりをもたらし、国際テロなどに米欧諸国に似た対決の姿勢をとらせるようになる、との予測である。
1月28日付の同紙は元東京支局長のデビッド・ピリング記者の「日本外交の分岐点」と題する評論記事を掲載した。この記事は今回の日本人人質事件が戦後の日本外交を根本から変えうる分岐点となるだろうという主旨で、まず従来の日本が国際社会でどの国とも対立や対決を避けて、表面の友好姿勢を保つ「全方位外交」をとってきた、としている。同記事はこの日本の姿勢を「中立の幻想」とか「すべての国の友人だというふりをしながら、自国の経済利益だけを追求する」ことだと手厳しく評している。
そのうえで同記事は今回の事件が日本にすべての諸国や諸組織に対しての中立姿勢を保つことはもう許さなくなるとして、とくに安倍首相は今回の事件を契機に「積極的平和主義」を進め、防衛の強化を図り、憲法の改正をも果たそうとしていると述べている。だが同記事は安倍首相のその改憲は日本国内の消極平和主義の強さを考えると、まだ難しいだろうとする一方、これからの日本は今回のテロで示された世界の危険な現実への明確な対応が求められるようになるだろうとも予測している。
同記事は安倍首相の「他の諸国のようにテロなどには毅然と立ち向かう」姿勢がどこまで進むかは、いまISISに人質となっている後藤健二氏の生死次第だと述べながらも、「いずれにしても日本がどっちつかずの塀の上に立ち」、態度を明確にしないという時代はもう終わりつつある、との結論を強調した。
以上のようなフィナンシャル・タイムズの評論はいまの日本国内で人質の生命最優先という立場からテロ組織の要求に応じることを求める意見がまったくないという現実とも一致しているといえよう。人質事件が日本の外交や防衛の政策を変えうる。今回の事件にはそんな思わない効果も含まれているようだ。
(本記事は、日本時間2015年2月1日00:05に寄稿されたものです)