[イ・スミン]【韓国、増税ラッシュで朴大統領支持率急落】~公約「増税なき福祉」は絵に描いた餅に~
李受玟(イ・スミン)(韓国大手経済誌記者)
約1,600万人の韓国のサラリーマンたちに「13月の給与[1]」と呼ばれた年末精算(日本でいう年末調整)が“税金の爆弾”に変身し、政権3年目を迎えた朴槿恵(パク・クンヘ)政府の足を引っ張っている。
韓国の年末精算は毎年1月、前の年度に一括課税した所得税などを労働者個人の状況に合わせて控除、正確な税金を取り立てていく制度だ。今年の年末清算では、中間層に分類されている年収5,000万ウォン以上~8,000万ウォン以下のサラリーマンは、いつも政府から返してもらっていた税金を、むしろ取られる状況に置かれた。「増税はない」と自信ありげに言っていた朴大統領の説明とは正反対で、政府と大統領府に対する国民の非難は高まる一方だ。
実際、朴大統領に対する支持率は最悪な状況だ。1月27日、世論調査機関リアルメーターが発表した、朴大統領の国政遂行についての支持率は29.7%[2]と、26日の30.1%よりもさらに下がった。レームダックの基準である心理的支持率も30%まで急落した。 似たような結果を出している他の多くの世論調査機関も、支持率下落の原因に年末精算の過程で明るみに出た増税論議を挙げた。
問題は昨年、新たに投入した勤労所得税法まで遡る。 韓国では普通1月中旬から2月初めまでに、勤労者個人が前年度の支出の内訳などを会社と国税庁に報告することになっている。 今年は政府が30年間維持してきた控除方式を従来の所得控除から税額控除に変え、また控除基準となる簡易税額表(源泉徴収の基準)を適用した。
この過程で高所得者から税金をさらに取り立てるという新しい法案の本来の趣旨は毀損され、子供の多い世帯や独身者、共働き家庭の税金の負担が増える事例が発生した。
政府が改定の前に実行したシミュレーションが正確でなかったのが大きかった。結局400万人の勤労所得者が通常よりさらに税金を取られる立場になった。朴政府が巧みに増税政策を取っているのでは、という憶測まで出ているようだ。
さらに政府は、正月の初旬から代表的な間接税であるタバコに課す税金を大幅に引き上げ[3]、生活の余裕がない庶民を狙ったといわれる、住民税や自動車税なども引き上げると発表した。反面、法人税の引き上げは全く考慮していないと語り、増税の公平性をめぐる議論は、熱くなる一方だ。
この増税の議論のコアには「増税無き福祉」という朴政府の核心的な公約がある。 朴大統領は2012年の選挙期間に「無償保育」と「無償給食」など、福祉の恩恵を受ける対象を増やすが増税はしないと約束し、当選した。しかし韓国政府の財政は4年連続、赤字を記録している。
税収は2012年2.8兆ウォンが不足した国税収入は2013年8.5兆ウォン、2014年約11兆ウォンが足りない状態だ。これは出産奨励や保育福祉など税金を使う所が急激に増えたのに、税金を徴収する余力は以前と似たりよったりで、むしろ不況で減ったためだ。
結局、政府は増税と福祉のどちらか一つを選ばなければならない立場だ。 二つの理想的な目標を同時に実現するというのは夢では可能な話だ。これまで朴政府が「増税無き福祉」を叫びながら約束していた多くの福祉政策について人々は疑問の眼差しを送っている。 これでは「増税有り。福祉無し。」が韓国の現実に近い、と自嘲気味に話す者もいる。それほど複雑な問題が 朴大統領の前に立ちはだかっている。
[1] 2014年度まで国税庁から源泉徴収した税金が多かったため、多数のサラリーマンたちは一度徴収された税金を返してもらうことを期待し、この用語を使用した。
[2] 全国の成人男女1,000人を対象に、標本誤差95%、信頼水準±2.0%p
[3] 最大の増税額は一箱当たり2,000ウォン(約220円)