[古森義久]【全米衝撃!人気キャスター虚偽発言認める】~地に堕ちたテレビ報道の信頼性~
古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)
「古森義久の内外透視」
アメリカのテレビ報道界に衝撃波が広がった。ニュース番組のアンカーとして全米でも最高の人気を誇ってきたNBCニュースのブライアン・ウィリアムズ氏の虚偽発言の自認である。同様の検証の少ない日本のテレビ報道界にとっても、他人事ではないだろう。
ウィリアムズ氏といえば、「NBCナイトリー・ニューズ」のアンカーで編集長をも兼ねる著名なテレビ・ジャーナリストである。この番組は毎夕、全米で900万人が視聴するとされ、現在55歳の同氏は2004年からこの番組アンカーを続け、テレビ報道では全米で最も人気のある人物とされてきた。
そのウィリアムズ氏が番組で述べていた言葉が事実ではなかったと認めたのだ。具体的には「2003年の米軍のイラク介入時、現地で取材中の私が乗った米軍ヘリコプターが地上からのロケット砲の攻撃を受けて、被弾し、緊急着陸するという恐怖を体験した」とこれまで何回も語ってきたのを撤回して、「自分の乗ったヘリが被弾したことはない」と述べたのだった。
ウィリアムズ氏は2月4日の自分のニュース番組で非を認め、「実際に被弾したのは、自分の搭乗機の前に同じ地域を飛んだ他の3機のヘリコプターだった」と語り、この間違いを「自分自身の記憶違い」だとして謝罪を表明した。
同氏もNBCニュースもこの「被弾の体験」を過去12年間ほど、何回もテレビ報道のなかで繰り返してきた。ところがこの1月末、同氏がまたこの「体験」を自分の番組で語ったのに対し、当時のイラクで実際に被弾したヘリの元兵士がついに「事実ではない」と抗議したのだった。
現実には2003年3月、イラクのバグダッド西方で米軍のチヌーク型ヘリ3機が当時のイラク軍の地上砲火を浴びて、緊急着陸するという出来事があったが、ウィリアムズ氏とその取材班はその1時間ほど後に同じ地域で別のヘリに搭乗しただけで、被弾などはまったくなかったことが判明した。
NBCではこの事態の展開を受けて、まずウィリアムズ氏が夕方の番組から臨時に降板することを決めるとともに、社内での正式の調査を開始した。同時にウィリアムズ氏が2005年8月のハリケーン・カトリーナの被災地取材の際に述べた言葉にも虚偽の疑いがあることが2月7日付のワシントン・ポストなどの報道で明らかとなった。
同氏は被災地のルイジアナ州ニューオーリンズ市で「滞在したホテルの周囲の水に死体が浮いているのを見た」とか「スーパードーム(巨大なスタジアム)の屋上から絶望した被災者が飛び降りて自殺するのを目撃した」と、いずれもテレビ報道のなかで繰り返し述べてきた。ところがその二つの「目撃談」も現地の実態とは異なる点が多いというのだ。
この事態ではウィリアムズ氏の退陣は確実とみられる。同氏の虚言、あるいは事実と合致しない発言は実際のテレビ報道のなかで表明されてきただけに、アメリカのテレビ報道界全体の信頼性もがひどく傷つくことにもなる。
しかし外部からみる限り、アメリカのテレビ報道で最も人気があり、知名度も高いベテランのジャーナリストがこの種のインチキな報告を重ねたまま、活動を続けてきたとなれば、テレビ報道全体への限りない不信につながることは不可避だろう。なんだ、テレビの報道とは、こんなものだったのか、という不信である。