[佐藤慶一]【ニューヨーク・タイムズ、デジタル有料購読者3年で3倍】~読まれる記事の内容に課題も~
トップ画像/ニューヨーク・タイムズ社の公開データをもとに筆者作成
佐藤慶一(ウェブ編集者/メディアリサーチャー)
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2月3日、ニューヨーク・タイムズ社が第4四半期決算を発表した。プリント版の広告収入は約10%減少した一方で、デジタル広告収入は約20%増。注目の有料購読者数は91万人を超え、2011年のペイウォール(コンテンツを一部有料化し、対価を支払ったユーザーのみアクセスできるようにすること)設置後、順調にその数字を伸ばしている。
2011年以降の有料購読者数の推移をグラフに落としてみると、2011年3月には10万人、2012年3月には45万人、2013年3月には67万人、2014年3月には80万人ほどとなっている。そして最新のデータでは91万人とのことで、このペースでは年内に100万人に到達する見込みだ。
ニューヨーク・タイムズの有料メニューは月10記事以上読むためには有料というモデルを採用している。スマートフォンやタブレットからのアクセス、家族共有などメニューによって価格は異なるが、価格設定は月3.75~8ドル。自分以外の人に対して12~26週分の購読権利(ギフト)を送付することもできる。
昨年からはいくつかニュースアプリをリリースするという新しい動きを見せていた。キュレーションアプリ「NYT Now」(月6ドル)やオピニオンアプリ「NYT Opinion」(月8ドル)がその例だ。これらを通じて若者の有料購読を狙おうとしたがあまりうまくいなかなったようだ。Capital New Yorkの記事によれば、NYT Nowの有料購読者は2万人に届かなかったとされる。
2014年5月には、女性読者の獲得に向けてレシピサイト&アプリ「NYT Cooking」も開設。こちらは無料で読み放題というモデルだ。ウェブサイトやアプリを通じた課金以外にも、2014年秋からイベントシリーズ「Look West」(参加費: 25ドル)の企画・運営を開始している。これは西海岸のアート、メディア、テクノロジー関連のイノベーターを招くもので、どのような効果や影響を生み出していくのか注目が集まる。
アメリカだけで500以上の媒体がペイウォール導入しているというデータもあり、ニューヨーク・タイムズのような大手媒体がどのような戦略を取っていくのかは、有料モデルを実施/検討している媒体にとって参考になることが多いはず。昨年には「イノベーション」と題したレポートを作成し、新興メディアを研究したうえで、これからは読者開発(Audience Development)に注力していく。2015年からは読者開発の部署を設置し、ソーシャルメディアをはじめとする新しいプラットフォームに向けてどのように記事を広げていくのか研究・実践する。
最後に、ニューヨーク・タイムズは有料購読を増加させることのほかにも課題をかかえている。2014年にもっとも訪問数が多かった記事ランキングを公開したのだが、上位には真面目な記事もあるものの、まとめ記事などキャッチーでカジュアルな記事も多くランクインしている。社会課題を追った記事、調査報道など重要な記事がどのようにすれば読まれるのか。今後の読者開発の取り組みに目を向けていきたい。