無料会員募集中
.国際  投稿日:2015/3/19

[渋谷真紀子]【薬・酒・暴力から子供を救え!】~演劇で実現する安全な居場所作り~


渋谷真紀子(ボストン大学院・演劇教育専攻)

執筆記事プロフィール

「私はアメリカ人!Latino(南米系)だからスペイン語も話すけど、英語が母国語よ!ブリティッシュ・イングリッシュじゃなく、あなたと同じ米語を話しているの。」これは、ラテン系パフォーマンスグループの台詞の一つです。

移民大国アメリカは、生まれも育ちもアメリカだけれど、両親や祖父母が他の言語も話し、残念ながら生活環境の負の連鎖がいまだに続いています。先日、こうしたアメリカの貧困地域や裏の世界、刑務所に住む人達を30年間インタビューし続け、それを元に舞台でユーモアたっぷりに彼らの本音を届ける「Culture Clash」というアーティストの公演キックオフイベントを開催しました。そのイベントでは、様々なラテン系パフォーマンスグループが彼らの声をラップ、ポエム、演劇、歌など、様々な表現方法で披露しました。

ボストン周辺の貧困地域の10代の子供達と劇作りを行っている大学教授のもと、私はその子達に1日ワークショップを行い、稽古にも参加させてもらいました。そこで驚いたのは彼らの生活環境と反比例するアットホームな環境でした。

ラテン系といっても、見た目はアフリカ系だったりアジア系だったり白人系だったり様々です。中には、部屋の隅に座り込み、イヤホンで耳を塞ぎ、フードで顔を隠し、明らかに構わないで欲しいというオーラを出している子もいます。しかし、先生が名前を呼ぶと照れくさそうに舞台に上がり、ノリノリなダンスを披露する照れ屋な少年でした。私が英語で説明しきれない部分をフォローしてくれる子がいたり、私の身長が足りない動きをフォローしてくれたりとても温かい印象でした。

しかし、何年も彼らと劇作りしている教授によると、ほとんどが家族や学校に居場所がない子供達だと言います。家族や自分の生活の為に働いている子供達がほとんどなので、稽古に連絡なしで来ないことも多々あります。大抵は、家族や周りの大人たちの影響で薬・飲酒・暴力の経験があるか、もしくはそれが日常で目にする光景であり、中には誤認も含め逮捕された経験のある子供達もいるといいます。しばらく稽古にもこず、連絡がないと思うと少年院にいた、親がまた逮捕されたので弟の面倒を見なければいけなかった等の理由だったこともあるそうです。

「●●最近きてないし、きても目も合わせず、一言も喋らないんだけどー」と一人の生徒が言うと、「彼はお母さんと弟の為に働いて、稽古に来た時は疲れ果てているの。心も疲れているし、とてもシャイだから、皆が温かく受け入れてあげないと本当に来られなくなるわよ。皆、その気持ちよくわかるでしょ?」全員が心の中で頷いた瞬間でした。

「どう生きたいかなんて考える必要ない、どう生活するかが大事なんだから。」これも台詞の一部です。この演劇グループは、「権力」「負の連鎖」等のキーワードを元に、彼らの実体験や主張を演劇で表現しています。先生はこう言います。

「彼らに選択肢はなく、どう思うか考えるか、どうしたいかをまともに聞いてくれる大人がいない。だからこそ、私は何でも聞いて、それを一緒に考えて、彼らにとっては日常である社会的犠牲に自ら立ち上がる言葉と行動する機会を創っているの。初めは悲観的な子が多いけれど、しばらくすると将来は何ができるようになりたい、何がしたいという希望が生まれてくる。それを一緒に経験していく仲間ができることが彼らにとっては大きな財産になのよ。誰も味方がいない、常に暴力や権力に怯えている子供達だから、心身ともに安全な場所を提供できるだけでもとても重要なの。」

この活動に参加していることを家族が知っている子は少ないといいます。家族が無関心、忙し過ぎて構えない、言ったらその分働けと言われる等々の理由だそうです。「始めは、食べ物の支給があるし、演劇の先生がカリスマ過ぎて一緒にカッコいいことやりたいと思ったから来てみただけ。路上でたむろっているよりよっぽど楽しいし、安全でビックリした!」

彼らの今回の作品は、「警察官の権力への怒り」です。「警察は僕たちの見た目や一緒にいる人達で、何もしてないのに犯罪者扱いしてくる。常に逮捕するタイミングを待ち構えているんだ。ただ友達と楽しくセブンイレブンの後ろでだべってるだけなのに、珍しくもらったブラウニーを食べてるだけなのに、麻薬を仕込んでるとか言ってくる。」「安全を守る人達なのに、私達の安全を奪っていく。」

米国の警察官の権力乱用は、今問題視されています。そして、本公演に向けての抱負、「弱者だからこそ優しさと強さがわかるんだ。俺たちだからできる心に響く作品を創っていきたい!」と目を輝かせて話してくれました。家族や学校以外にも子供達を救える人達が今日も活躍しているのです。


copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."