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.国際  投稿日:2014/12/4

[岩田太郎]【検察手続きと白人警官証言の矛盾、日本で報じられず】~米・黒人青年射殺事件:大陪審不起訴~ファーガソンの怒り②


 岩田太郎(在米ジャーナリスト)「岩田太郎のアメリカどんつき通信」

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米ミズーリ州ファーガソン市で8月9日に、丸腰の黒人青年マイケル・ブラウン君(18)を射殺した白人の元警察官ダレン・ウィルソン氏(28)は11月24日、不起訴処分となった。この判断を導いた検察の法的手続きや、ウィルソン氏の証言の矛盾点・問題点が次々と指摘され、議論が白熱している。

まず、事件を管轄するセントルイス郡検察の白人検事、ロバート・マクロク氏(62)が、公正な立場から大陪審を誘導したか、疑問が出ている。マクロク検事の父親、セントルイス市警のポール・マクロク巡査(享年37)は1964年7月2日、黒人の誘拐容疑者を逮捕する公務中、容疑者に撃たれて死亡した。ロバートは当時12歳の少年だった。

検事になってからは、犯人に撃たれて死亡した警官の家族を支援する団体で20年間活動していた。個人的怨恨と警察への深い思い入れから、今回の起訴手続きを公平に行えないとして、この案件から身を引くよう、市民から要求されたが、従わなかった。また、白人のジェイ・ニクソン州知事(58)はマクロク検事を外す権限を持っていたにもかかわらず、要求を突っぱねた。

2000年7月には、ブラウン君と同様に丸腰の黒人アール・マレー氏(享年36)とロナルド・ビーズリー氏(享年36)を射殺した2人の白人刑事を、マクロク検事が大陪審で無罪に導き、大規模な抗議行動を受けている。

カリフォルニア大学バークレー校心理学部で政治心理学・偏見・人種差別を専門領域とするジャック・グリーザー教授は、「マクロク検事は今回の案件で、公平でいる能力が阻害されていたと見るのが妥当だ」とコメントしている。

また、マクロク検事が大陪審に提示した「証拠」の検討について、「法廷の審理に類似するが、非常に緩い『疑うに足りる相当な理由がない』という基準が使われ、『スーパー推定無罪』が適用された」との指摘が相次いでいる。

さらに、「ブラウン君が手を挙げていたのに撃たれた」との証言が「完全に一致せず矛盾していた」とされた証人たちには、些細な証言の矛盾でも、犯罪者の取り調べのような詰問と追及が行われる一方、ウィルソン氏に対しては、「身の危険を感じたのですね」と女性検事が優しく聞き、「だから、射殺しなければならなかったのですね」と続け、容疑者の無実を「立証」する役目を、訴える立場の検事が演じていたことも明らかになっている。

「マクロク検事は、はじめからウィルソン氏の訴追を阻止する強力な政治的な意志を持って手続きを操作し、不起訴になる『証拠』のみを提示し、大陪審に不正な職務上の影響力を行使した」との声が黒人メディアだけでなく、『ワシントン・ポスト』紙や『ニューヨーク・タイムズ』紙でも取り上げられている。

ウィルソン氏の証言にも、多くの疑問点が提起されている。気鋭のユダヤ系評論家、エズラ・クライン氏は、自身が立ち上げた人気評論サイト『Vox』で、「もしウィルソン氏の証言が真実なら、なぜ大学入学を控えて(将来のことを考えるはずの)18歳のブラウン君が、ウィルソン氏に命令されたのに道の真ん中から歩道に移らなかったのか。なぜ、警官に対して悪態をついたのか。なぜ、警官に襲いかかったのか。どうして、『撃てるものなら、撃て』と挑発したのか。なぜ銃を構える警察官に突進したのか。なぜ走っており、丸腰なのに、(ウィルソン氏が言うように)腰のバンドに手を伸ばしたのか。つじつまが合わないことだらけだ」と指摘している。

ウィルソン氏の証言には、米国の人種差別の歴史に照らして、さらに重大な意味と矛盾が込められているとの評論もある。それは次回に紹介しよう。(つづく)

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