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.国際  投稿日:2014/11/26

[岩田太郎]【「黒人」大統領に救済されない黒人】~米・黒人青年射殺事件:大陪審不起訴~ファーガソンの怒り①


 岩田太郎(在米ジャーナリスト)「岩田太郎のアメリカどんつき通信」

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「証拠を徹底的に吟味した結果、犯罪があったとして起訴する理由が見当たらない」。

米ミズーリー州ファーガソン市で8月9日に、丸腰の黒人青年マイケル・ブラウン君(18)を射殺した白人警察官ダレン・ウイルソン氏(28)に対し、同州セントルイス郡大陪審は11月24日、殺人罪などでの起訴を見送った。

大陪審は、検察の起訴・不起訴の判断を覆すことはほとんどせず、検察の判断に法の手続きの正統性の仮面を与えるための形骸化した機関である。今回の事件の本質は、「なぜ警察に『正当防衛』として、市民(特に黒人)を簡単に殺傷する権限が与えられているか」であるが、それは大陪審が扱う問題ではない。そのため、与えられた枠組みの中では、ウィルソン氏に向かって全力で走っただけのブラウン君の殺害が正当化されるのは当然だった。

黒人の怒りは頂点に達している。政府が守らなければならないはずの米国「市民」である黒人たちの命は虫けら以下の扱いを受け、黒人の命や生活を破壊する者の罪が問われないからだ。

米国初の「黒人」大統領、バラク・オバマ氏(53)は大陪審の評決後、全米に向けて演説し、「怒りを覚える多くの人がいる」として、抗議の高まりに理解を示した。だが同時に、「どのような出来事であれ、暴力や破壊行為の行使の言い訳にすれば、法の支配と米国のあり方に反する」と述べ、暴力による抗議を牽制する強いメッセージを出している。

興味深いことに、オバマ大統領は過去6年の任期中、一度も、「警察による、丸腰の黒人に対する暴力や殺害は、法の支配と米国のあり方に反する」と述べたことがない。「警察が守らなければならない対象の黒人市民を、殺傷することは絶対に許さない」として、大統領令を出したこともない。

いみじくも、オバマ大統領は11月20日、共和党の反対を押し切って大統領令によって500万人近い不法移民の強制送還を猶予した。この方針は多くの苦しむ人たちを救済するが、最近米国にやって来た者が先に救済され、数百年にわたり政府によって命や生活をないがしろにされ続けている者の救済は行われない。黒人メディアからは、「特赦された移民が黒人の職を奪う」と危惧の声が上がっている。

また、オバマ政権は一部判例で同性愛婚が合法化される数年も前から、政府の法解釈を変え、数千にも上る法律の細則を、政府が一丸となった努力で改定し、「結婚の平等」の便宜を同性愛者のために図った。

イリノイ州においては、今年6月の同性愛婚の合法化の数か月前に、死の病を患った白人レズビアン女性のために州裁判所が超法規的措置をとり、相手の白人女性との「結婚」を認めた。法の施行前に、情実で法を曲げたのだ。

だが、黒人にはそのような情実が認められない。黒人を警察から守るために、同様な情熱と強制力を行使する大統領や判事はいない。黒人の絶望の源は、ここにある。オバマ大統領が越権をしてでも黒人の権利を擁護しなければ、誰がやるのか。

「米国史では、時に憲法違反が米国を繁栄に導いたこともある」と述べるのは、 ジョージタウン大学のルイス・サイードマン教授だ。同教授は、「リンカーン大統領が奴隷制廃止を宣言した際、連邦政府に奴隷制度を停止する憲法上の権限はないというのが、当時の共通した認識だったし、ローズベルト大統領がニューディール政策で連邦政府の権限を拡大したときは最高裁判所と衝突した」と述べている。オバマ大統領が決断する日は来るだろうか。

(次回は、「米警察による市民の生殺与奪権の悪用」)

 

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