[Football Edge 編集部]【なぜ、オーストラリアは強くなったのか? 】〜3つのポイントで読み解く、アジア王者になった理由〜
(文・卜部太郎)(写真・Kenzaburo Matsuoka)
2014年アジアチャンピオンズリーグ優勝、2015年アジアカップ優勝。近年、アジアのタイトルを総なめにしているのがオーストラリアだ。ここ最近、オーストラリアのサッカーレベルが急激に上がってきている。それには3つの大きな理由があった――。
1つ目は、Aリーグの開幕だ。2005年にスタートしたこのリーグは、今年で10シーズン目を迎える。最初は8チームからスタートし、現在は10チームに増えている。
Aリーグの下にはナショナルプレミアリーグ(NPL)があり、実質2部リーグ(セミプロ)に相当する。日本でもJリーグ誕生がサッカーの発展、強化につながったが、オーストラリアにも同じことが起きている。Aリーグ誕生が子どもたちに夢と明確な目標を与えるきっかけになった事は言うまでもない。
オーストラリアはラグビーやクリケットが有名で、プロリーグも多く存在する。それらの歴史は150年以上もあり、ヨーロッパ各国におけるサッカーと同じような位置づけになっている。そこに、サッカーが割って入ろうとしたのである。
Aリーグを大きくする為の戦略として行ったのは、ラグビーリーグを手掛けていた人物をAリーグのトップに入閣させたこと。彼は今まで培ってきたノウハウを使い、ラグビーと同じように草の根運動から始め、サッカー人気を築いてきた。
オーストラリアには移民が多く、その大半がヨーロッパから来た人たちである。ヨーロッパの人気スポーツといえばサッカー。Aリーグの開幕とともに、多くの移民がサッカーに飛びつき、人気が急上昇したという背景がある。
2つ目の理由に「サッカーを取り巻く環境」が上げられる。近年、子どものサッカー人口はラグビーやクリケットとより多いと言われている。サッカーは世界中で行われているナンバーワンスポーツであり、ラグビーやクリケットよりもケガが少ないというのが、その理由だ。
オーストラリア人の特長に、身体能力の高さがある。オーストラリアは『スポーツ王国』と言われ、サッカーやラグビー以外にもクリケット、テニス、水泳、ゴルフ、トライアスロン、ロードバイク、サーフィンなどが盛んである。
これらのスポーツを身近にできる環境が整っており、小さい時から沢山のスポーツに触れる機会に恵まれている。それがオーストラリア人の身体能力に寄与する部分は大きい。
また街の至る所に芝生のグラウンドや公園があり、簡単に使用する事が出来る環境も、スポーツ王国と言われる由縁だろう。
サッカーシーズンは秋から冬にかけて行われ、子どもたちはオフシーズンになるとサッカー以外のスポーツを楽しんでいる。そこでサッカーとは違ったバランス感覚を補い、筋肉を鍛えることができるのも、オーストラリアのサッカーが成長している要因のひとつだろう。
そして3つめの理由が「教育環境」だ。筆者が今までオーストラリアの学校やサッカーの現場を見て感じるのは、『日本とオーストラリアの教え方の違い』である。教育とサッカーは切っても切れない関係であり、個人的にはこれが今後、日本サッカーが発展するためキーワードだと確信している。
文化の違いと言ってしまえばそれまでだが、オーストラリアでは一般的に「褒めて伸ばす」方法を学校やスポーツ、家庭などで取り入れている。 前提として、子どもは自分が楽しいと思わないと伸びず、長続きもしない。そのような子どもの心理をもとに教育が成されていることが、オーストラリアのサッカーに良い影響を及ばしている。
言ってしまえば、得意な部分(長所)を伸ばす。オーストラリアでは「苦手な事を克服する時間があるのなら、得意な事を時間をかけて伸ばしていこう」という考え方が一般的だ。
もちろん、得意な事や好きな事だけをやっていればいいというわけではないが、「個性が育まれる」という意味では必要な事かもしれない。サッカーはチーム競技であり、協調性はとても大事な要素だが、強い個性を持った選手が協調してプレーできれば、その完成度はさらに高いものになる。
全体的に、日本と比べてオーストラリアサッカーの技術レベルは低い。しかし、スピードに乗ったドリブルが武器のウイング、大きくて強いFW、ヘディングやタックルが上手なDFなど、特長のある選手が多く存在している。それがオーストラリアの「長所を伸ばす」という教育環境で育てられた結果だと思う。
サッカーの成長につながる背景を持ったオーストラリアがアジアに参入し、アジアカップやアジアチャンピオンズリーグで結果を残しているのは、ある意味で当然のことだと言える。今後、オーストラリアがサッカーに対して力を注ぎ、サッカー熱がより高まっていくようになれば、アジアはもちろん、世界を驚かす存在になる可能性はそう遠くないはずだ。
提供元:<Football EDGE>