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.社会,ビジネス  投稿日:2015/3/27

[七尾藍佳]【保育付シェアオフィスで自由に働く!】〜「仕事か子供か」二者択一迫らぬ社会 2〜


 

七尾藍佳 ジャーナリスト・国際メディアコンサルタント)

「七尾藍佳の“The Perspectives”」

プロフィール執筆記事

「仕事を終えて帰宅した後は、一時間という短い時間の中でお風呂に、寝かしつけとやらなきゃいけないことを目一杯詰め込んでいたので、子供たちが思い通りに動いてくれないと叱りつけたりして、ゆっくり会話したり、子供の感じていることや変化に気づいてあげる余裕がまったく無かった。毎日を如何に効率化するかしか考えられない日々で、会社組織の中で上りつめたいという自分のエゴのために子どもたちに窮屈な思いを強いているんじゃないか、と感じていました」。

こう語るのは、東証一部上場の不動産会社で当時6歳と3歳の二児の育児に追われながらフルタイムで管理職をしていた高田麻衣子さんです。高田さんの様に、子供を産んだ後も総合職で男性と肩を並べて仕事を続けたいと考える女性たちは「仕事」のために「子供」を犠牲にしているというストレスを抱えがちです。

かといって、彼女のような「バリキャリ・ワーキングマザー」が男性社員と比べて遜色なく働けているのかというと、決してそうではありません。高田さんは「会社の他のみんなよりは早く帰路についているという後ろめたさ」を感じていたと言います。

「仕事も中途半端、かといって子供にもきちんと接してあげられていないという中途半端さに悩みながら、自分を騙し騙し子供が成長して行くのを見ている感じでした。子供がそのうち自分から離れて行くのは目に見えているのに、二度とは戻らないこんなに可愛い時期を、せっかく子供を産んだのに楽しめない仕組みにしか(日本は)なっていないのが残念」。

高田さんは、この「残念感」をそのままで終わらせることはせず、脱サラして起業するという道を選びます。昨年12月に「ママをたすけるシェアオフィス」、「マフィス馬事公苑」を立ち上げました。

 

〈写真:「マフィス馬事公苑」の経営者 高田麻衣子さん)

この施設は、保育スペースから吹き抜けの階段を上った一段高い位置にオフィススペースが設けられていて、親は子どもの様子を感じながら仕事ができる作りになっています。授乳や散歩など、自分の好きなタイミングでいつでも子どもに寄り添うことができる環境にありながら、作業に集中できるシェアオフィスに惹かれて集まった利用者の多くは、ウェブマガジン編集者、食育インストラクターや大学の非常勤講師など、いわゆる「フリーランス」で「非サラリーマン」な、働くママたちでした。

「当初は、育児中の社員のテレワークの場所として企業ニーズが念頭にあったんです。ただ、現在は世田谷に一箇所だけなので、都心の企業に利用してもらうには拠点を増やさないと難しい。でも、サラリーマンの女友達に提案してみても“たしかにそういう生活は理想だけど、うちの会社じゃ無理だな”という人ばかり。ママ側が固定観念を崩し切れていない所もある。逆に発見だったのが、フリーランスの人たちの働き方がとても自由だったこと。子育てを楽しみつつ、自分のキャリアも充実。こういう働き方を人生の中で選んでいる人たちがいたことが発見でしたね」。

より「バランス」の取れた働き方をしている彼女たちの姿を見て、高田さんは長時間労働の上に成立する日本の企業社会が変わる必要性を一層強く感じるようになったといいます。

「子どもがいようがいまいが、女性にとっては組織の中で頑張り続けるか、“ぶら下がる”かのどっちかしか道が無いんです。お金をかけて、ありとあらゆる育児資源を使って男性並みの仕事をするか、割り切って残業せずに時短で働く代わりにやりがいのある仕事を諦める、いわゆる“マミートラック”に乗ってじっと耐えるかの選択肢しか無い。仕事も子どももどっちも諦めたくなかった私は会社をやめて起業しました。でも私みたいな人は少数派で、やはり会社員のママが“マミートラック”に乗らずにやりがいのある仕事を続けられるように、社会・企業のあり方を変えていかないとダメだと思います」と高田さんは強調しました。

子供を産んで働くことがストレスになる社会のままで変われないなら、子供か仕事のどちらか一方を諦める人も減ることはないでしょう。つまり、企業、国の保育制度、女性・男性共に働く人たちの意識、そのすべてが変わらなければ日本の女性就労率は先進諸国の中で突出して低いまま、出生率も上がる見込みはないのです。

こうした“働くママの為のシェアオフィス”というビジネスモデルを成功させるには、企業ニーズを掘り起こせるかどうかが鍵となりそうですが、そのためにはまず企業が変わらなければいけません。行政のサポートも必要になるでしょう。世田谷の住宅地にぽつんとできた一つのシェアオフィスの未来は、日本が女性の潜在労働力を活かすことができるかの試金石と言っても過言ではないのです。

 

 

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