[七尾藍佳]【どうなる、自衛隊の「普通の軍隊化」】~今国会会期内成立目指す安倍政権~
七尾藍佳( ジャーナリスト・国際メディアコンサルタント)
「七尾藍佳の“The Perspectives”」
<安倍首相「我が軍」発言は自衛隊の「普通の軍隊化」という最終ゴールを露わにした>安倍首相が自衛隊を「我が軍」と呼んだことは、現在進められている新しい安全保障法制の正体を露わにしました。それは、自衛隊を「普通の軍隊」とすることです。そして安倍首相は、最終的には軍事力をテコに他国に影響力を行使することができる「グローバル・パワー」としての日本を目指しています。
たしかに、冷戦後一定の時が流れ、世界秩序における米国のヘゲモニーが崩れるとまでは行かないまでも現実問題としてその影響力が変質しつつある中、日本の外交・安全保障政策には再検討の必要が生じています。
ISIL(イスラム国)やイエメンのフーシなどの武装勢力がウェストファリア条約以来の主権国家を中心とした国際秩序を揺さぶり、中国は軍事力を強化し既存の国境線に圧力をかけ、北朝鮮はこれまで以上に不安定という情勢の中、有事の際に日本はどこまでアメリカに頼ることができるのか、そしてどこまで自らの武力で自国を守るのかが問われています。
この問いに対する答えは、世界における日本の役割をどう考えるか、つまり新しい日本の<国家像>によって変わってきます。どんな日本を目指すかで、自衛隊は世界のどこで、何をするのかが決まるのです。
<新安全保障法制という難解なパズルの完成図は「戦争のできる国」>
しかし、今の安全保障法制の改正作業で一番問題なのは、この順序が逆になっていることです。安倍首相は自らが最終的に目指す日本の国家像をはっきりとは言説化しないまま「対テロ」・「原油の安定供給」など個別の「現実のニーズ」に対応するためと説明し、改正案を積み重ねて行っています。
政府が進めている新安全保障法制の策定に対して、国民が今ひとつはっきりとした態度を示せずにいるのは、ひとえにその「全体像が見えない」からです。しかし、小出しにされる情報を俯瞰してみるとその全体像が見えてきます。
3月20日に自民・公明両党が合意した骨格で最も注目すべきは以下の3点です:
- アメリカなど「密接な関係国」の軍隊をグローバルに「後方支援」することができるように「周辺事態法」の地理的制約を撤廃。政府は集団的自衛権にも地理的制約は無いとしていますから、例えばアメリカが中東で攻撃をされた場合、日本は集団的自衛権を行使するとして米軍の「後方支援」に当たることができるようになります。
- 「国際協力」目的で自衛隊が米軍以外の他国の「後方支援」を行えるように新たな恒久法を制定。「国連」の決議に基づかない有志連合の活動にも参加できるようになりますから、国際社会の広い賛同を得ていないオペレーションにも参加できることとなり、潜在的に日本のレピュテーション・リスクは高まります。また、周辺事態法・新恒久法いずれにおいても「後方支援」に関しては「武力行使」目的ではないとして「新3要件」は適用されません。
- 新しい恒久法では自衛隊を派遣する際に国会の事前承認が「基本」とされます。改正される周辺事態法では事前承認は「義務」ですが、国際貢献の恒久法では「基本」とされ、自衛隊派遣への国会という「歯止め」がより一層「緩く」なります。公明党は、恒久法に関しても国会承認を「義務」とすることを最後まで求めていましたが、結局、緊急時には事前承認というプロセスをすっとばして自衛隊を派遣できる「余地」を残したい自民党に押し切られた格好です。
<「後方支援」は攻撃されている側から見れば立派な戦闘行為になる>
以上の3点を具体的に考えてみましょう。当初は「後方支援」だからということで新3要件(武力行使を必要最小限に留めるように定められた要件です)を外し、米国ないし複数国によるオペレーションに自衛隊を派遣します。しかし、対峙する敵が自衛隊の目の前で米軍を、あるいは自衛隊自体を攻撃してきた場合、日本はどうすればいいのでしょうか。
安倍政権は「後方支援」であれば安全であるかのように言っていますが、実際の戦闘においてアメリカに攻撃されている国・武装勢力から見れば、米軍に物資を補給する日本は、明らかに戦闘に参加する敵対勢力と見なされ、攻撃対象となるでしょう。実際に攻撃されたら、その時点で改めて国会で武力行使の新3要件を検討している余裕は現実問題として無いでしょう。つまりたとえ「後方支援」目的の派遣であったとしても攻撃されれば日本は直ちに戦闘に巻き込まれることになります。
こうなると自衛隊は「普通の軍隊」と言えるでしょう。だからこそ安倍首相は自衛隊を「我が軍」と「つい」呼んでしまったのではないでしょうか。自民党はこの新安全保障法制の「今国会の会期内」の成立を目指しています。それは6月24日です。あと3ヶ月を切っています。国民が声を上げることが無ければ、自衛隊を「普通の軍隊」にするための法案・改正案は粛々と可決されます。国民の審判を経ることなく。