[安倍宏行]【報ステ「古賀・古館論争」が教えること】~コメンテーターの在り方、議論を~
安倍宏行(Japan In-depth編集長/ジャーナリスト)
「編集長の眼」
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27日(金)のテレビ朝日「報道ステーション」の生放送中に、コメンテーターの元経済産業省官僚の古賀茂明氏が、自らが番組を降板することになった経緯について主張し始め、それを制しようとした古舘伊知郎キャスターと論争になった。筆者はアメリカにいて生放送を見ていないが、やり取りとその後のニコ生での古賀氏の発言などを見た。だまし討ちにあったテレビ朝日には同情するが、古賀氏を報道番組のコメンテーターとして出演を依頼していた時点でこうなることは容易に予想できたはずで、そういう意味では自業自得な気もする。そもそも帯の番組(毎週月~金、同じ時間に放送される番組)のコメンテーターはどのようにして選ばれるのかというと、一般的には、番組スタッフから候補者が何人か挙げられ、プロデューサーがそれを絞り、報道局幹部と相談の上最終決定するというのが通常の流れだろう。
つまり番組が勝手にコメンテーターを選ぶということはまず、ない。つまり古賀氏はかなりきわどい政権批判をするけれど、そこは番組内でキャスターなり、他の出演者の発言でバランスを取ればいいだろう、とテレビ朝日は判断したのだと思う。古賀氏はコントロール可能だと思っていたふしがあるが、これはテレビ局にとってはかなり危険な賭けでもある。今回のようにシナリオ(台本)に無いような不規則発言がなされた場合、収拾がつかなくなる可能性が高いからだ。
実は小生も局のコメンテーター時代にちょっとしたスタジオの混乱の真っ只中にいた経験がある。FNN系列の朝の情報番組「とくダネ!」の2011年10月27日報道のTPPについてのコーナーで、TPP反対の急先鋒として知られる京都大学准教授・中野剛志氏(当時)が、生放送中に一方的にTPPのデメリットを話し続けた件だ。当時放送事故レベルとネット上で話題になっていたから覚えている人もあろう。
視聴者の皆さんは面白がっていただろうが、スタジオで中野氏は、解説中のアナウンサーに否定的な言葉を投げ付けたかと思うと、TPPが如何に日本の産業にとってマイナスか大声でまくしたて、果てはフリップやボールペンを机に放り投げるに至って、MCや他のコメンテーター、フロアのスタッフ全員が固まってしまった。
一方的な議論になるのは防ぎたいと思ったが、全面否定の意見をとうとうと述べている最中にそれを遮ったり全否定したりすると火に油を注ぐことになる。苦慮した末、論点を「TPPに参加するなら、日本に不利にならないように霞が関は十分に準備するべきだ」という方向に落ち着かせるべくコメントした、という経験がある。(中野氏はどちらにせよ日本はTPP参加することになるだろう、との立場だった)このように、議論が一方的なものにならないようにバランスを取るのが局のコメンテーターの役割だ。
この「とくダネ!」の場合も、中野氏がこれほどまで一方的にTPP反対論を展開するとは思っていなかったのだろう。若干詰めが甘かった。私も中野氏とは初対面で事前のすり合わせもなくぶっつけ本番だったのも準備不足だった。とにかく、あまりに一方的な放送内容になったため、その翌日TPP賛成のゲストを呼び、バランスを取ったという経緯がある。つまり、報道番組であれ、情報番組であれ、コメンテーターやゲストを慎重に選ばないと、番組はバランスを欠き、収拾がつかなくなることがある、ということだ。
そんな予定調和では面白くない、とお思いの向きもあろうが、放送法というものがある限り、テレビ局は放送内容を公平公正にしなければならない。勘違いしてもらいたくないのは、だからテレビ局が政府の言論機関になっていい、ということではない。様々な問題を取り上げ、それを視聴者に提示することは重要なメディアの役割である。ただ何らかの意図を持って世論を誘導しようとすることはしてはならない。
古賀氏の意見も、中野氏の意見も、一個人の意見である。賛成の人も反対の人もいよう。メディアの本当の役割とは問題点を浮き彫りにするだけではなく、視聴者が考えることが出来るような情報も合わせて提示することだろう。極端な意見の人を呼ぶなと言っているわけではない。その人と反対の意見の人も呼び、複数の意見を提示すると共に、複数の解決策・シナリオを提示することが今、テレビに求められている。今回の騒動が、コメンテーターの在り方や報道・情報番組の内容にまで踏み込んだ議論がなされるきっかけとなることを期待する。