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.社会  投稿日:2015/4/4

[為末大学] 【いい思い込みと悪い思い込み】~自分を客観的に見る癖をつける大切さ~


 

為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)

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私はおそらく思い込みが強い方で、まあそうでないと世界を目指そうなんて馬鹿げたことは考えないだろうけれど、それによっていいこともあったし悪いこともあった。特にそうだと思い込んでいるときはいくら周りがおかしいと言っても全くそれを聞かなくて、みんなはなんでこんな分かりきったことが分からないんだとすら思っていて大失敗した。

思い込みは自らの見方を固定する。そもそもカルト教団にはまったり、怪しいビジネスにはまったり、政治的に偏ったりするのは、思い込みが影響している。それは正しいに違いないと思い込んだ後は、それを否定するような情報は全部間違えだと感じ、ひどければそれが自分への攻撃だとすら思う。だから思い込んでいる人を救うのは難儀であり、かつ自分の身にも危険が降りかかっている恐れがある。

一方で思い込みが強くなければ偉業なんて達成できない。世界で誰もやり遂げたことをないことを自分はやり遂げられると信じるなんて、どう考えても冷静な判断ではない。そこに強い思い込みがあって、それを実行した結果本当に成し遂げられたりする。思い込みはエネルギーであり、ぶれなさにもつながる。思い込みは迷いと恐れを弾き飛ばしてくれる。

周辺にいる思い込みが強い人にも、成功している人と、その思い込みが身を滅ぼしている人の二種類いる。一体違いは何か。難しい問いだけれど、一つ言えるのは、成功している人の思い込みは自分発であることが多いのではないかと思う。自分が思いついたアイデアに取り憑かれ成功すると思い込む。一方でカルト的な世界に生きる人は、何かを正しいと信じ込んでいるタイプの思い込みでこういう人には必ず教祖がいる。アイドルだったり、運動体だったり、教典だったり、政治的な思想だったりするけれど、いずれにしても依存する対象がある。だからカルト的な思い込みは単独では行われず必ず群れる。

成功に自らを導く思い込みは、おそらく自分で作ったストーリーにはまり込んでいき、そして完全にそう成り切ってしまうのではないかと思う。自分は今どんな物語の中を生きているのかを客観的に見るという癖を、一度思い込んで痛い目を見てからは考えるようになった。物語の文脈が自分を決めている。

 


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