[Japan In-depth 編集部]【新たな英語力判定試験の開発が必要】~グローバル人材輩出の為に~
Japan In-depth 編集部(Kiso)
「なぜ日本でグローバル人材が育たないのか。その一因ともされる、今や1兆円規模にもなった予備校産業に従事する一人としてこれ程頭の痛いことはない」こう嘆くのは、いまや大学入試英語のカリスマ講師として名を馳せる安河内哲也氏(現文部科学省「英語教育の在り方に関する有識者会議」委員)だ。そんな将来の海外で活躍するグローバル人材輩出のため、今後の英語教育を考えるために先月末、半蔵門・英国大使館にて「英語教育セミナー グローバル人材育成に求められる有効な英語力判定のあり方」が開催された。
登壇者として招聘されたのは、同氏の他、各英語能力判定試験機関の関係者、Kishore Roy氏(IELTS British Council)、Gerry Delaney氏(Cambridge English Language Assessment)、鈴木正紀氏(PEARSON PTE-A)、の三氏だ。
まず、安河内氏は自らの予備校講師の経験も合わせて、大学入試の出題環境を問題視する。「大学入試合格のため、我々予備校講師は無駄を極限まで削ぎ落とすことで学生を指導してきた。ただセンター試験や大学入試といえば、語彙、読解問題、和訳、日本語による論述問題への偏りが大きく、全体の8割以上を占め、リスニングは2%以下、スピーキングテストはほぼゼロとなっている。(ベネッセ調べ)」
また、各大学や学部でバラバラの出題形式で、受験生は個別の対策を高1、高2の早い時期から行わなければならず、個別の技能に関しても、センター試験以外の多くの試験が、学習指導要領に配慮して作成されているとは言い難い現状だという。
学習指導要領によれば、読み書き聞き話す、の四技能をバランスよく習得するよう、また文法などが中心とならないよう指導しなければならないと記載されているが条件を満たしているとは言えない状況だ。
TOEICが800点を超えていようと、英語を話すことのできない人も多いのが実情で、その理由は大学入試の出題方式の問題に帰結する。そこで、大学入試英語改革の一環として、独自の四技能のバランスのとれた問題を作成する、もしくは外部の検定試験を採用することを安河内氏は提言した。ポイントは、四技能のバランスとともに、測定されるTLU(言語使用領域)が明確であること、そしてスコアの信頼性・互換性、有用性等をあげた。
今回登壇した各機関は、英語能力判定試験はもちろん、L(リスニング)、R(リーディング)、S(スピーキング)、W(ライティング)の四つの技能をバランス良く判定できるよう出題しており、思考力やビジネススキル、経済知識など、大学進学以降必要とされる、よりアカデミックな能力を測定するテストなどの開発に取り組んでいるという。
IELTSは、ライティングで図表の読み取りや論述問題、スピーキングでプレゼンテーションやディスカッションの試験を設けている。複数の試験形式があり、段階的にレベルを設定し、各試験に互換性をおいて、受験者に自らの能力の“位置”を教えてくれる。また、速報性という付加価値を付けるたのが、PTE-Aで、全て採点はコンピューターで行い、受験者の実力の定期的なチェックを可能にしている。
今回の聴講者には、首都圏の名だたる大学の担当者が数多く参加した。グローバル人材輩出へ向けた受験制度改革のために、まずは、独自の試験とともに、外部試験を並行して両方使い分け、受験できるようにするのはどうだろうか。今回紹介された各機関の実施する試験の検証が急がれる。