[関口威人]【愛知・名古屋、勢い失った減税日本】~統一地方選、地方政治の裏表~
関口威人(記者)
「関口威人のグローカリズム」
12日に投開票された統一地方選の前半戦。県議選と市議選の「ダブル選挙」となった愛知・名古屋では、4年前の「トリプル選挙」で旋風を巻き起こした河村市長率いる減税日本や無所属議員がすっかり勢いを失い、既成政党への揺り戻しが鮮明になった。投票率は過去最低を更新、すっかり白け気分が漂っている。
減税日本は前回、28議席を獲得、定数75の市議会で一気に第1党へと躍り出た。しかしその後、政務活動費の不正受給などの不祥事や河村市長との考え方の違いなどから離党者が続出。議席は11にまで減り、第4党にまで転落していた。
河村市長は「今回はようけ厳しく選んで」新人を含む18人を擁立。候補たちは5%減税や議員報酬半減などの実績とともに、「河村市長を助ける男(女)」というキャッチフレーズを掲げて選挙に臨んだ。しかしこれ、決して有権者のウケはよくなかったと感じる。対立候補たちは「市長を助ける人たちでなく、市民を助ける人を」「名古屋を助けるのは私」と皮肉たっぷりにもじっていた。
ふたを開ければ、減税日本の当選は12人。議席は1増ということになるが、4年前と比べれば半分以下だ。得票数で見ると、27万票近くをかき集めた前回に対し、今回は8万3000票余りと3分の1以下に減った。投票率が過去最低の36.57%に落ち込んだこともあり、諸派や無所属を足しても10万票をわずかに上回る程度。特に減税を飛び出して無所属や生活、次世代などで出馬した候補の得票は、1000に満たない悲惨な結果が続々。個人的にはしっかりした人物と見ていた候補も少なくなかったが、河村市長からも、多くの市民からも愛想をつかされた形に終わってしまった。
河村市長は一夜明けた13日の記者会見で、「事前には4とか5という予想もあったので12議席でとりあえず安堵の気持ちはある。しかし、減税や報酬半減という公約を実現させてきたのにそれが広がらない。前回、減税に入れてくれた人の多くが『棄権』に回ってしまったんじゃないですか」と分析。「不祥事だけではこうならない。何なのか。つらいですよ」とぼやいた。
結局、自民は改選前の18議席から22議席へ、民主は12から16へ、公明は12と変わらず、共産が5から12へと躍進した。県議選はさらに極端だ。7議席確保していた減税の議席がなくなり、自民と民主、共産の既成政党が議席を増やした。昨年の衆院選で愛知に2議席を確保し、存在感を示しつつあった維新も今回は振るわなかった。地域政党、第3極など風前の灯といった様相だ。
見方を変えれば、大阪都構想で揺れる大阪に比べて、名古屋には切迫感がまるでなかった。もともと恵まれている地域で、政治や経済がある程度落ち着いてしまうと、無風や相乗りのような保守的な面が表に出やすいのだろう。
しかし、トヨタを中心とした自動車産業の景気回復に対する格差や、じわじわと進む少子高齢化、そして南海トラフ地震対策など「裏」の課題は根深く、いつ弾けてもおかしくない。今回の選挙結果を受け、河村市長と議会は何かにつけて対立を繰り返すという、既視感ありありの状態がまた続くだろう。しかし、マンネリや膠着状態に陥っている余裕はない。落ち着きつつも、やるべき改革や課題解決は進めてほしい。役者も裏方も右往左往するドタバタ劇をうんざりしながら見てきた市民は、4年分の「成熟」した舞台を求めているはずだ。