【プライマリー・バランスの黒字化へ向けて】~「財政健全化計画」今夏策定~
高田英樹(財務省)
※本稿は個人としての見解であり、筆者の所属する組織の見解を代表するものではありません。
2015年度予算は、4月9日に成立した。しかし、財政当局にとってはむしろこれからが本番だ。今夏に、基礎的財政収支(プライマリー・バランス:PB)の黒字化へ向けた「財政健全化計画」を策定することとなっているからである。
前回コラム「2015年度予算に見る財政の現状と課題」(2015.3.19)でも述べたが、PBの黒字化とは、国債の償還費・利払費を除いた政策的歳出を、新たな借金に頼らずに税収等で賄うことを意味する。過去から積み上がってきた借金から発生する元利払いを除く、「現在の国民が享受する公共サービス」については、負担を将来につけ回しせずに、「現在の国民が支払う税」で賄う、いわば「自分の食い扶持は自分で稼ぐ」ということだ。
このPB黒字化を中心として、政府は、次のような段階的な財政健全化目標を定めている。
①2015年度までに、PB赤字を対GDP比で2010年度の水準から半減する。
②2020年度までに、PBを黒字化する。
③その後、債務残高対GDP比を安定的に引き下げる。
2015年度は①のPB赤字半減目標の達成年度に当たっており、この達成ができるかどうかが2015年度予算編成の一つの焦点であった。2015年10月に予定されていた消費税率の10%への引上げを延期したことにより、一層そのハードルは高くなったが、景気回復による税収増や、社会保障歳出の抑制等により、ぎりぎりこれは達成できる見込みとなった。
そして、今夏に策定する財政健全化計画では、②のPB黒字化達成への道筋を具体的に示すことになる。PB黒字化は、これ以上負担の付け回しを拡大しない状態に、毎年度の収支の構造を改善することを意味すると同時に、③の債務残高対GDP比引下げの前提でもある。
PBは、国債の償還費・利払費を除く歳出を税収で賄うことであると述べた。言葉を換えれば、PBが均衡した状態においては、国債の償還費・利払費を賄う分だけ、新規に国債を発行することとなる。国債償還費に相当する分については、国債の発行と償還が相殺されるため、利払費相当分だけ、実質的に新規国債発行を行うこととなる。
このとき、債務残高とGDPの関係を見ると、利払費、すなわち債務残高に金利(名目長期金利)をかけた分だけ、債務残高は増加する。他方、GDPは、経済成長率(名目)の分だけ拡大する。したがって、PB均衡状態において、仮に名目長期金利と名目経済成長率が等しければ、債務残高とGDPの比率は変わらない。この状態で、PBをさらに改善して黒字化すれば、債務残高対GDP比は縮小していくことになる。
現在は、債務残高の増加ペースが経済成長率を上回る「発散」状態にあり、こうした状態が続けば、財政を持続させることはできない。これを反転させ、債務の増加を経済成長の範囲内に抑える、すなわち「収束」の状態にすることができれば、債務が増加し続けていても、財政の安定性は保つことができると考えられている。
もっとも、PBと債務残高対GDP比の関係は、名目長期金利と名目経済成長率のどちらが高いかによって変わってくる。金利の方が成長率より高い場合は、PBが均衡してもまだ債務残高の増加ペースが経済成長を上回ることになるため、債務を「収束」させるには、一定幅のPB黒字が必要となる。
逆に、成長率が金利より高ければ、多少PB赤字があっても、債務残高の増加を経済成長が上回ることになる。しかし、歴史的には、金利が成長率を上回るケースが多い。したがって、債務残高対GDP比を「安定的に」引き下げていくためには、やはりPBを黒字化し、かつその黒字が持続できるように、財政の収支を構造的に改善することが必要だ。
次回のコラムで、その方策についてさらに詳しく見ていきたい。