[岩田太郎]【アーモンドと人の生活、どっちが大切?】~干ばつのカリフォルニア州で大激論勃発~
岩田太郎(在米ジャーナリスト)
「岩田太郎のアメリカどんつき通信」
「あんたたちナッツ農家は、カリフォルニア州の水資源の80%を湯水のように使うくせに、州経済の2%分しか貢献していないじゃないか!」ロサンゼルスのトーク・ラジオ放送局KFIの司会者ジョン・コビルト氏が、ゲストのアーモンド農場経営者のブラッド・グリーソン氏を攻撃する。1200年に一度といわれる大干ばつによる水不足を受け、ブラウン同州知事は都市部住民や企業に対して水の使用を25%カットするよう命令したが、農家へは使用制限が課されず、不公平感が高まっているのだ。
特に、一粒を育てるのに3.8リットルという大量の水を必要とするアーモンドをはじめ、ナッツ類が問題視されている。カリフォルニア州は世界のアーモンドの約8割を生産し、その70%は日本や中国などアジア諸国を中心とする外国へ輸出されている。米CNBCは4月15日、「アジアへナッツ類を輸出するために、都市住民が朝のシャワーの時間を削り、水をやれずに枯れた庭の芝生を引き抜くなかで、憤りが高まっている」と伝えた。
このまま対立が悪化すれば、アーモンドなどの生産量を減らす圧力がかかる可能性がある。そうなれば、ガッキーこと女優の新垣結衣さんが宣伝する「○○アーモンド・チョコレート」も値上げや生産削減に追い込まれかねない。日本人にとって対岸の火事ではない。
先のトークショーでアーモンド農家のグリーソン氏は、「我々の水の使用量は80%ではなく実際は40%で、放牧による畜産業の使用量より低い」と防戦に努めた。しかしホストのコビルト氏は聴取者の前で、「この大ウソつきめ」と罵り、「アーモンドがなくても生きられるが、コップの水がなければ生きていけないんだ」と訴えた。
確かに、ニュースサイト『Gizmodo』のアリッサ・ウォーカー氏が、「アーモンドは悪魔のナッツ」と形容するなど、アーモンドはスケープゴートにされている。だが昨年、アーモンドは同州に110億ドル(約1.3兆円)の収入をもたらすなど、決して悪者ではない。因みに、同州農業全体の生産高は460億ドル(約5.5兆円)なので、アーモンドはかなり重要な作物だ。
『マザージョーンズ』誌のトム・フィルポット記者は4月15日付の記事で、「アーモンドの多くが輸出されて米国にはあまり残らない一方、裕福なアーモンド農家は拡大を続け、水の使用制限に反対することが、反感を買う理由だ」と分析した。
現在、同州世論の批判の矢面に立たされているのは白人のアーモンド農家だが、メディアによる住民感情の報道で「アジアへの輸出のせい」という理由がついていることには、注意を払う必要がある。
カリフォルニア州の水不足論争の底流には、グローバル化への反感が隠れており、しかもそれは日本や中国への根強い悪感情を呼び覚ましている。今から100年前、同州は排日・排華のメッカだった。きっかけがあれば、そうした感情は再び非人種差別的な形をとりつつ表出する。
今のアーモンド論争が、すぐにアジアやアジア系住民への攻撃やいやがらせにつながることはないだろうが、「米国が、アジアの利益のために犠牲になっている」という人種主義的な被害者感情は、1980年代や1990年代のジャパン・バッシングに見られた歴史的な潮流だ。
事実、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)成立に向けての議論の文脈で、中韓をはじめアジア諸国などの通貨価値切り下げ競争によるドル高で米経済の成長が邪魔をされているという言説が米国で静かに広まっている。煽る者や、他に併せてアジア諸国を叩く理由が出てくれば、一気に火が付きかねない。注意深く、アーモンド論争や通貨戦争論の行方を見守りたい。