[須藤史奈子]【政府の支援が地方の村まで届かない】~ネパール大地震 現地リポート~
須藤史奈子(映像ディレクター、プロデューサー)
被災した日のメモを、ロッジのダイニングルームでまとめていたら、被災状況に関する様々な情報が耳に入ってきた。みんな真剣な表情だ。ただiPhoneをいじくって遊んでいるのではなく、原稿を書いているのだ、と聞かれてもいないのに言い訳する。でも、ちょっと待った。私の体験談よりも、もっと大事なことがある・・・と、編集長には申し訳ないが、そう思い直した。私が滞在しているのは標高3,440m、エベレスト街道最大の村、通称「シェルパの里」ナムチェ・バザール。観光客が多く(「観光客」といっても最寄り空港から徒歩で10時間以上かかるので、ほとんどがバックパッカー)コンクリートで補強された丈夫な2階建以上の建物が多いので、近隣の村に比べ被害が少なかったようだ。
みんなが口を揃えて言うのは、こういうことだ。 まず、ネパール政府は混沌としており、地震から1週間近く経つのに、政府からの支援は皆無、地元警察や駐屯している陸軍は頑張ってくれているが、世界中から集まった支援金について政府からは何も連絡がない。賄賂が横行している現状を考えると、恐らく今後も期待できないだろう。
ネパール政府については、アウトライン程度の知識しかないのだが、王政になったり、共産主義が強くなったり、政策の全く違う政党が反政府という目的で結託してみたりと「混沌」としている。政権交代以来、地方選挙はなく、村長さんは不在だそうだ。
それぞれの村では自分たちで作った自治会(日本でいう町内会のようなものか)で公共設備を管理しているそうだ。実際、これを書いている最中にも、近くに座っているロッジのオーナーの元に回覧板のようなものが回ってきた。何かと聞いたら、村の貯水槽が壊れたので、その修繕のために積立金を使っても良いかの是非を問うものだという。「みんなのお金だからね、こうやって透明にしているんだよ」と「クンブ・ロッジ」オーナーのペンバさん。
ちょうど良い機会だったので、村では今、何が必要なのか聞いてみた。「自分たちは良い方だ。近隣のターメ村では、全ての家がダメージを受け、全壊した家も多く、100軒以上の家が住めない状態だという。自分も昨日、食料とブランケットを持ってお見舞いをしてきたばかりだ。この辺りでは、クムジュン、クンデも打撃を受けている。今日はパウダーミルクを届けに行く。1キロだいたい850ルピー。50キロくらいあれば、3つの村の1日分になる。運び賃が一番高いけど、それは自分たちでやるから大丈夫だ。」
「ヘリコプターはないのですか?」 「お金を出せは雇える。カトマンズからだと大体3000ドルくらい。それで400キロの物資が運べる。」 「政府のヘリコプターは?」 「政府?ここには政府は存在しない、と思っていいよ。」 「他にも、寺院や学校など、修理が必要なものが多いが、政府からお金はまわってこないだろう。だから、お金を自分たちで調達しなければならないが、資金は限られているから元通りになるのに時間がかかるだろう。寺院は心の拠り所としてだけでなく、集会場としての役割を持つ。それが今、なくなってしまった状態だ。」
聞き方を変えてみた。「私たちには一体何ができるのでしょうか?」 「もし寄付を考えてくれているのなら、大きな団体に寄付するのではなく、村の自治会の銀行口座に振り込んで欲しい。ネパール政府にお金を渡しても、土に水をかけるようなものだろうから」 では、その自治会は、本当に信用できるのだろうか?自分の体験談を話すと、まず、前出の回覧板の件を聞く限り、お金の流れは透明なようだ。
もうひとつの体験談。インタビューを終え「何かできることがあたら遠慮なく言ってください」とペンバさんに伝えると同時に若者のグループがやってきた。どうやら、ペンバさんが所有するネットカフェのコンピューターを貸して欲しいという事らしい。ペンバさんが私の方を向いて「もし手助けをしたいということなら、英語で支援金募集の文句を書いてあげてくれるかい?」 「もちろん!」私は若者のグループと共に1階のネットカフェへ。ターメ村の青年代表ミンマさんのフェイスブックのページに支援金募集の情報を英語で打ち込んだり、写真を選んで入れたりなど作業をしていたら、後ろにどんどん人が集まってきた。銀行口座の数字が間違っていないかとか(ネパールの「1」は「9」に見える)、写真はこっちの方が良いのではないか、とか。一致団結しているのが、ひしひしと伝わってきた。
世界中で募金活動が行われている。ニューヨークでも、私がメディアのボランティアをしている団体、FGFH(ファッション・ガールズ・フォー・ヒューマニティ)が、オークションを予定している。 今月いっぱい、ネパールへの送金手数料タダというキャンペーンをしている金融機関もあると聞いた。支援金を寄付するのであれば、地域に密着している団体や、自治体に直接行うという選択もあるかもしれない、と考えさせられた。
(注:この記事は震災直後の現地の人たちへのインタビューをベースにしています。募金や寄付はあくまで個人の判断で行うようお願い致します。)