[相川梨絵]【“温故知新”伝統的な家は強かった】~台風直撃のバヌアツ事情 4~
相川梨絵(フリーアナウンサー/バヌアツ共和国親善大使)
「相川梨絵のバヌアツ・ニュース」
興味深い新聞記事がありました。「今回のサイクロンで、バヌアツは食料担保がないのが露呈したが、昔は持っていた」今回の巨大サイクロンPAMでバヌアツ南部の島々は畑が壊滅、食料がなくなってしまいました。支援で届くお米で日々食べつなぐ他ありません。
彼らは、自分たちで作った野菜を収穫し、食べています。わずかな収入減も収穫した野菜をマーケットで売って得ていました。もともと、食べ物を貯蔵するという概念はありません。たぶん、暖かい気候なので、腐ってしまうからでしょう。また、土地が豊かなので、野菜や果物に困る事もないからです。
しかし、サイクロンで事態が一変しました。記事によると、それは、過去のものを失ったからだと。昔の人は畑を一世帯平均10個は持っていたそうです。それも別々の場所に配置していました。これによって、リスクの分散をしていたのだそうです。しかし、今は一家に畑は一つ。これが壊され、どうする事もできなくなってしまいました。
また、サイクロン前に全ての茎を切り落とした畑は、根菜類は地中で生き残り、バナナなども切り落とした場所から、いち早く葉が伸びていました。これをしなかった場所では、根ごと倒され、畑は一からやり直しです。これらも昔から伝わるサイクロンの対処法です。
家屋に関しても、同じような事例があります。被害が最も大きかったと言われるタンナ島。個人の家はほぼ全て倒壊し、コンクリートでできた教会や小学校まで崩れ落ちてしまいました。そんな中、びくともしなかった建物、それはなんとドーム型をしたタンナ島の伝統的な家でした。昔ながらの木造、茅葺の家がこれほど巨大なサイクロンに耐えられたのは何故か。取材で訪れた京都大学 防災研究所で耐風構造研究をされている西嶋一欽准教授によればポイントは4つ。
1. 柱に使われている木材が非常に太い。現在の日本の二階建ての家でもこれくらい立派な木材を使っている家は珍しい。
2. 屋根がドーム型になっている。そのため風の力が上空から地面にかけて働くため破壊されにくい。
3. 屋根が地面に設置していて軒下がない。軒下があるとそこから風が上に向かって吹き上げ、屋根をふきとばす原因となる。
4. 釘ではなくロープを使って接合しているため、ゆさぶりにも強い。
タンナの人々もみな口をそろえて“やはり伝統的な家は強かった。次のサイクロンに備えてこういう強い家を建てなければ”と言っていたそうです。
一方、新しい物を取り入れて良かった点もありました。今から27年前、1987年にバヌアツを襲ったサイクロンUMA。今回のサイクロンPAMと同じような道筋を通り、甚大な被害をもたらしました。この時は、公式発表では死者48人、重傷者は人口の20%にも及ぶ28,000人という大惨事となりました。今回はUMAよりも勢力が大きいサイクロンだったにも関わらず、死者数は11、けが人もわずかにとどまりました。
これは、携帯電話やインターネットの普及のおかげだと言われています。UMAの時は、警報はラジオでしか流す事ができませんでした。実際にサイクロン時に船で海に出ていて35人の方が亡くなっています。今回のPAMでは、普及率が100%近い携帯電話のSMSで、3時間ごとにサイクロンの情報を流していたそうです。
昔ながらの知恵を大切にし、新しく有効なものは取り入れる。今回のサイクロンから、バヌアツの今後の方針が見えた気がしました。