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.経済  投稿日:2015/5/21

【財政健全化への道筋:「3つの柱」での取組み】~2020年時点のPB黒字化に向けて~


高田英樹(財務省)

執筆記事プロフィール

※本稿は個人としての見解であり、筆者の所属する組織の見解を代表するものではありません。

前回コラム「プライマリー・バランスの黒字化へ向けて」(2015.4.14)において、2020年度までに基礎的財政収支(プライマリー・バランス:PB)を黒字化するとの財政健全化目標達成へ向けた「財政健全化計画」を、政府が今夏に策定することを紹介した。現在、その財政健全化計画についての議論が、政府の経済財政諮問会議、財政制度等審議会、さらには自民党の財政再建特命委員会などで活発化してきている。

この財政健全化計画の出発点となるのが、内閣府が本年2月12日に公表した「中長期の経済財政に関する試算」である。この試算では、いわゆるアベノミクスの「三本の矢」の効果が発現し、経済再生が実現する「経済再生ケース」と、経済が足元の潜在成長率並みで推移する「ベースラインケース」の2つのシナリオが示されている。

「経済再生ケース」においては、中長期的に名目3%以上、実質2%以上のGDP成長率が実現し、物価上昇率についても、日本銀行が掲げている2%の物価安定目標が達成されることを前提としている。

だが問題は、経済再生ケースを前提とし、かつ、2017年4月に予定されている消費税率の10%への引上げを織り込んでもなお、試算上は、2020年度時点で約9.4兆円のPB赤字が残存することだ。PB黒字化を達成するためには、今後の5年間で、9.4兆円分の財政収支を改善するための何らかの方策が必要となる。

この方策として、政府は、①デフレ脱却・経済再生、②歳出改革、③歳入改革の3つの柱で取り組むとしている。問題は、これらの3つをどのように組み合わせるか、そのバランスだ。このうち③の歳入改革については、消費税率の引上げが2017年4月に予定されている中、さらなる増税について現時点で議論の前面には出ておらず、経済・社会構造の変化に対応した質的な改革が中心となっている。

議論の焦点となっているのは、①の経済再生と②の歳出改革で、それぞれどの程度の収支改善を目指すかだ。この点、前述の9.4兆円のPB赤字は、経済再生の実現による税収増を織り込んだ後の数字であることに留意しなければならない。

より現状に近い経済成長を想定した「ベースラインケース」の試算では、2020年度時点でのPB赤字は16.4兆円となる。経済再生の果実は、経済を「ベースラインケース」から「経済再生ケース」へと移行させることにより、PB赤字を16.4兆円から9.4兆円へと、7兆円改善させることで、すでに相当程度実現されているともいえる。

「経済再生ケース」の想定以上に、経済成長によってさらに税収を伸ばす余地がどの程度あるのかについては議論がある。だが、ここで留意しなければならないのは、仮にそれが実現できたとしても、経済成長によって大きく増加した税収は、経済が失速すれば失われてしまう可能性が高いことだ。過去にも、2007年度に、PB黒字化が視野に入るところまで来ながら、2008年のリーマン・ショック後の税収の急落で一挙に遠ざかってしまった経緯がある。

2020年度のPB黒字化は、一時的な経済好調によって瞬間風速的に到達すればよいものではなく、その後も黒字を継続していかなければ財政の健全化はできない。それには、構造的・制度的な改革によって、安定的に財政収支を改善することが必要となる。経済再生に加え、歳出改革等にも強力に取り組むことが不可欠だろう。

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