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.経済,ビジネス  投稿日:2015/6/2

[遠藤功治]【“意思ある投資”にシフト、一気に攻めに転ず】~大手自動車会社決算と今後の課題 トヨタ 3~


遠藤功治(アドバンストリサーチジャパン マネージングディレクター)

「遠藤功治のオートモーティブ・フォーカス」

執筆記事プロフィール

(この記事は、【営利、我が国初の3兆円乗せへ】~大手自動車会社決算と今後の課題 トヨタ 1~【意外、国内利益率は低水準】~大手自動車会社決算と今後の課題 トヨタ 2~ の続きです。全3回)

決算から離れても、最近のトヨタに関する話題の多いこと。年初からですと、1:種類株の発行とISSの反対意見、2:ベア・ボーナスの大幅増、3:下請け部品会社への値下げ見送り、4:3年振りに新工場建設決定、5:大幅な人事異動、6:系列部品会社における生産項目の再編、7:マツダとの提携、8:東京オリンピックのグローバルスポンサー契約、9:FCVミライの発売、10:布野元副社長の日銀審議委員就任、などなど。

決算で豊田社長は、“意志ある踊り場”から“意志ある投資”への変更を明かしました。リーマン後の赤字転落・大規模リコール・東日本大震災・タイの洪水・中国での日本車不買運動・超円高など、現豊田社長が就任してから、その経営環境には大変厳しいものがありました。結果、新工場建設を事実上3年間凍結、既存工場の最大限の活用で設備投資を抑えた訳です。

表(トップ画像参照)にもありますように、2010年から2013年まで、対売上比での設備投資の比率は3%台と、低い水準で推移しました。これが、昨年度・今年度と、久々に4%台に乗ってきた訳です。中国とメキシコにおける新工場の建設も発表しました。また、昨年度に続き、今年度もベアや一時金の大幅な引き上げに動きました。GDP構成要素の最大の2点、つまり設備投資と個人消費で、ある意味、トヨタは安倍政権を援護射撃した格好に見えます。

下請け・部品会社への値引き要求を取り下げたことも、部品会社におけるベアや一時金の確保を促すことが目的であり、トヨタを頂点とするピラミッドのてっぺんから底辺まで、消費の底上げを狙ったものとも考えられます。何せ、トヨタの部品調達額は年間ざっと15兆円。僅か1%の値引きでもトヨタにとっては1,500億円の合理化効果となります。トヨタの年間合理化効果は、例年3,000億円前後ですから、この1,500億円というのは、その半分にも相当します。これを実施しないというのですから、自分自身が筋肉質になり、それだけ収益性が増したとの自信の表れとも言えましょうか。

マツダとの提携も発表されました。出資関係を含まない、技術や商品に絞った、比較的緩めの提携、トヨタからのラブコールであった、と報道されています。売上利益規模・設備投資・研究開発費などを見ても、トヨタはマツダのほぼ10倍です。その10倍の差をつけたトヨタがマツダに何を求めるのか、マツダが開発したSKYACTIVエンジンだと。従来から巷では、トヨタはハイブリッド車やFCVでは先行しているが、世界の圧倒的大部分を占める従来からのガソリンエンジン・ディーゼルエンジンではかなり遅れていると。今回の提携で、この遅れを一気に挽回したいのだと。

トヨタはこの11月に4世代目のプリウスを投入します。TNGA(Toyota New Global Architecture)と呼ばれる、プラットフォーム統合を目指したその第1弾です。2020年までにはトヨタ車の約半数が、この開発生産方式に移行します。FCVのミライも発売され、これも2020年の東京オリンピックに向けて、燃料電池関連のインフラの整備を狙っています。オリンピックのグローバルスポンサー契約もこれがその理由の一つ、2020年には自動走行機能を装備したミライなどのFCVに加えて、i-Road やWingletなど、交通インフラの構築まで狙っている、というものです。

さすがにこのような方向性の中で、トヨタでさえも全ての領域でリーダーの座を維持するのは至難の業であろうということでしょう。一方で、マツダはトヨタの真逆、収益低迷時に起死回生を掛けて全てのリソースをSKYACTIVに集中投下、これを成功させた訳です。マツダは現在、2018年頃の投入を目指して、HCCIという機能を入れたSKYACTIV-2を開発中。これが出来れば、欧州や米国で導入が進むであろう大幅な環境規制値もクリアできるということです。マツダはトヨタからFCVやHVの提供を受けるということでしょうが、本当に出資関係を伴わずに進むのか注目でしょう。

話しは長くなりましたが、最後にトヨタが今後発行する種類株について触れたいと思います。トヨタは来る6月の定時株主総会で、AA型種類株約5,000億円の発行につき、総会で提案をする予定です。この種類株とは、現在の普通株とは違い、元本保証の転換社債のような性格で、初年度の配当利回りは0.5%なのですが、その後毎年0.5%ずつ上昇して5年目には2.5%になる。最初の5年間は譲渡不可ですが、5年目以降からは普通株に転換出来るというもの。

発行価格は普通株より2割ほど高いということですから、1万円強ということになります。発行後、ほぼ同数の株式を市場から自己株買いで購入、希薄化を最小限に抑えるとのことです。5年間の譲渡制限があるため、機関投資家や外人投資家目的ではなく、長期保有目的の個人株主の比率を高めたい、とのトヨタの意向などでしょうが、これにISSが異を唱えました。曰く、安定株主の増加は以前の企業同士の持ち合いと同じで、投資家の声が経営に反映されにくくなると。現在の株主構成から言って、総会で否決される可能性は非常に低いと言わざるを得ませんが、小糸を巡る一件以来、トヨタ経営陣と一部投資家の議論の場が出来るのは、大変好ましいと言えます。株主総会は6月16日、大注目です。

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