[瀬尾温知]【岩隈、ノーヒットノーラン達成の秘密】~カギはキャッチャーとの相性~
瀬尾温知(スポーツライター)
「瀬尾温知のMais um・マイズゥン」(ポルトガル語でOne moreという意味)
岩隈が日本人投手2人目の快挙を成し遂げた。2001年の当時レッドソックスだった野茂英雄以来、14年ぶりとなるノーヒットノーラン達成。制球力とキャッチャーとの相性の良さがもたらした大記録だった。最後の打者が打ち上げたセンターへの飛球が野手のグラブに収まると、岩隈は両腕を高くあげてガッツポーズし、捕手のスクレと抱き合った。日米通じて自身初のノーヒットノーランだった。
メジャー4年目の岩隈は、13年に14勝、昨季は15勝をあげ、先発の柱としてチームの期待は大きかった。ところが開幕3戦目での初登板は6回5失点で負け投手、その後2度の登板でも安定感を欠き、4月24日に右広背筋を痛めて故障者リスト入りした。
マイナーで3度のリハビリ登板を経て、7月6日のタイガース戦で77日ぶりとなった復帰登板は、初めて1試合に4本塁打を浴びるなど、期待に応える活躍どころか、チームが地区4位に低迷する責任の一端は岩隈の不調にあった。オールスターゲーム前の前半戦最後の登板でようやく今季初勝利をマークし、後半戦に向けて「とにかく取り返す」と言葉に力を込めていた。
岩隈が本来の投球を取り戻すために首脳陣は後半戦の2回目の登板で、これまでバッテリーを組んでいたズニーノに代えて、スクレと組ませることにした。2013年にメジャーデビューしたベネズエラ出身のスクレとは、去年までも何度かバッテリーを組み、岩隈との相性は良かった。今季初めてバッテリーを組んだその試合では、勝ち負けこそつかなかったものの、7回2失点と復調の兆しを見せる投球だった。
ところが次の登板ではズニーノが捕手になって6回途中6失点。その次の登板は捕手をスクレに戻し、9回1死から完封目前で本塁打を打たれはしたが、見事な投球を披露した。首脳陣は岩隈と捕手の相性を見極めようとしていたのか、そのあとの登板で再びズニーノと組ませた。7回3失点で勝利投手にはなったが、打者を追い込んでもファウルで粘られて球数が増え、テンポのよい投球ができていなかった。
そしてノーヒットノーランを達成した12日のオリオールズ戦でマスクをかぶったのはスクレだった。スクレは以前、「思い通りのコースに投げてくるので組み立てやすい。受けていてこんなに楽しい投手はいない」と岩隈を評していた。打者の手元でわずかに変化するツーシーム、スライダーを軸に、スプリット、カーブを効果的に配球し、最速148キロだった速球もこの日は球速以上の伸びがあった。打ち取るごとに投球にリズムが出て、持ち前の制球力も冴えわたった。9回で116球を投げ、7個の三振を奪い、許した走者は四球による3人だけと圧巻の投球だった。
緻密なコントロールが生命線の岩隈は、コントロールミスから打たれる本塁打が今季は目立っていたが、この日の失投は2球だけだった。5回2死からスライダーが真ん中に甘く入ってセンターへ大飛球を打たれたあとは、ベンチに戻る前にシャドーピッチングで投球フォームを再確認する姿があった。7回の先頭には速球が真ん中にいったが、打者がバットを振り抜けていなかった分、致命傷にならなかった。
日本人投手では、ヤンキースの田中が9日のブルージェイズ戦で2本の本塁打を浴びて5敗目を喫したあとに、「メジャーでは自分の速球は並みのレベルなので、いかに制球ミスを少なくするかということしかないと思う」と分析していたが、そのお手本ともいえる岩隈の投球術だった。