[大原ケイ]【銃乱射事件の影で高まる銃規制への動き】~米・TV生中継射殺事件~
大原ケイ(米国在住リテラリー・エージェント)
「アメリカ本音通信」
8月26日、バージニア州で地元のテレビ局による朝のニュース番組のインタビューを生中継していたレポーターとカメラマンが射殺されるという、むごたらしい事件が起こった。衝撃的な映像とは裏腹に、事件のあらましはありきたりの話だ。TVジャーナリストを目指していた男がいた。いくつかの地方局でレポーターの仕事をし、バージニア州のWDBJというローカル局に就職した。だが、本人の攻撃的な性格が災いして同僚に疎まれていくのを「自分が黒人であるがゆえの人種差別」だと思い込み、解雇された後も鬱憤を募らせていった。そしてある日、自分を差別していたと思い込んでいた元同僚たちに一方的な復讐を果たし、その後、自殺した。
朝のニュース番組中に起こったできごとで、その一部始終が地元で放映されていたこと、また犯人本人も現場で生中継に入るのを確認し、銃を女性レポーターに向けるところまでの映像を記録し、SNSにアップロードしていたこともあり、ショッキングな現場を目にした者も多かった。事件直後、スタジオにカメラが切り替わった時、アナウンサーが何が起きたのかわからないほど驚いた様子でポカンと口を開けていた表情が忘れられない。
この手の事件が起きる度に、全米が嘆き、死者を悼み、現場には花が手向けられ、皆が沈痛な表情で「こんなことがあってはならない」「何とかしなければいけない」と語るのだが、それでも何も変わらず、また次の乱射事件が起きるのがアメリカの銃社会の現実だ。
それはまさしく、被害者の父親がインタビューでマスコミを通じ、宣言したことでもある。「来週になれば、娘の死はニュースではなくなる。だが私は一生忘れない。狂った人の手に銃が渡らないよう、世間に訴え、議員をせっつき、法律を変えていくことで娘に報いていく」と。
各州によっても銃規制法の厳しさは異なるが、精神に問題を抱えた人が銃を買う際にbackground checkと呼ばれる資格審査を行うべき、という意見は全米で既に90%を上回っていることが統計で裏付けられている。だが現実的にはそういう銃規制法があっても徹底されておらず、loopholeという抜け穴がいくらでもある。もちろんすべて全米ライフル協会(NRA)が、政治家に多額の献金をし、ワシントンにロビイストを送り込み、わざとそうしているのである。こういった悲惨な事件が起きる度に、自衛のためにと銃を買う人がまた増え、儲かるのだから。
そしてそれが次の事件につながっていく。その度に残された被害者や遺族は、銃規制に身を捧げる活動家となっていく。1999年のコロンバイン高校、2007年のバージニア工科大学、3年前コロラド州映画館とコネチカット州小学校、今年に入ってからもサウスカロライナ州黒人教会…いくらでも挙げられる大量殺人の乱射事件の関係者だけでなく、囲み記事にしかならないようなケース、つまり子どもが自衛用に家においてあった銃の誤射で命を落としたり、発作的に拳銃自殺を計ったりした者の遺族たちも、弾丸によって奪われた命のことを一生忘れることはない。今日も地元でコツコツと銃規制運動に参加していることだろう。
アメリカではマリファナや同性婚もいつのまにか水面下で行われてきた地道な合法化運動が功を奏し、critical mass(限界質量)と呼ばれる大衆に到達して一気に機運が高まり、各州で法律が動いている。次は銃規制と見る向きも多い。
タイミングとしてはヒラリー・クリントンが大統領に当選する2016年の選挙か、あるいはその2年後に下院で民主党が議席を奪還すれば一気に銃規制の徹底は進むだろう。だがそれまで何度「またか」と胸の塞がる思いをさせられることだろう。