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.国際  投稿日:2015/10/12

インドネシア高速鉄道、受注敗北ショック~日・中・ASEANのこれから その3~


千野境子(ジャーナリスト)

執筆記事プロフィール

■日本はASEAN諸国とどう付き合うか

確かに日本の新幹線は安心・安全・正確・快適・・・すべての点で、ひいき目でなく中国に勝っている。しかしそうした高度で複雑なシステムが世界中どこの国でも必要とされ、求められるかと言えば、別問題である。どこにもお国の事情がある。

新幹線システムは素晴らしいが、費用対効果などから我が国にはちょっと…と言う国は少なくないはずだ。相手の市場の現実をよく知り、ニーズを知るのはもとより、ニーズを作り出すことにまで挑戦して行かないと、日本は後発国にどんどん追い上げられ、負けるだろう。これがインドネシア受注合戦の第1の教訓である。

また日本のODA60年の歴史で、その支柱として大きな役割を果たしてきた円借款が必ずしも万能ではなくなり、かつてのような吸引力や魅力を失いつつあるという現実を目の当たりにしたのも教訓である。「円借款よりも投資を」が今日の世界の潮流である。

借りたのは事実だが、返済に追われてなかなか自立できないジレンマを抱える途上国は少なくない。開発援助に占めるODAの比率はますます低下し、今や民間企業やNGO(非政府機関)、巨大財団などの資金がODAを凌駕する時代となっている。

さらにたとえ親日国でも、日本に対して何でもイエスと言うわけではないという、当たり前の事実も噛みしめたい教訓である。裏切られたなんていうのはお門違い。どの国も最優先すべきは国益である。対日世論調査でも明らかなように、インドネシアはじめ東南アジア諸国には親日的な国が多く、ついつい心地よさに安住したり、勝手な思い込みをしたりしがちだ。けれど対外感情というものはちょっとしたことをきっかけに変わるものでもあるから、日ごろから不断の努力で人脈・ネットワークづくりをすることが大切だ。

陰りを見せるインドネシア経済に、ジョコ大統領は8月初めに内閣改造を行った。経済担当調整相など交代した6人には、知日派のゴーベル商業相も含まれていた。中央大出身でインドネシア日本友好協会の会長も務め、先の日中受注競争では新幹線派だった同氏の交代は一つのシグナルだったと見る向きもある。親中派の閣僚が留任したことも、そうした憶測を加速させた。

私は拙著『日本はASEANとどう付き合うか』のおわりに、日・ASEAN関係の今後について次のように書いた。ちょっと長めに引用して本稿の結びとしたい。

《「新型大国関係」で仕切ろうとする中国は、いまやアメリカからの挑戦を受けて立つ兆候さえ見せ始め、一方のアメリカはアジア・リバランス政策を掲げつつ、対中政策に一貫性が感じられず迷走しているように思える。中国の出方を測っているということもあるのだろう。しかしそうであればなおさら、日本とASEAN両者が協力し合う必要性と可能性はかつてなく大きく、増している…中略…そのための政治力を日本が日本らしく、またより見える形で発揮してもASEAN諸国から反発や拒否反応が出てくるとは思えない。

フィリピン、ベトナムはとりわけ日本への期待が高い。ASEANが全体として中国と事を構えることを望まない空気が支配的な中で、両国が反中で突出して結果的に孤立してしまうことがないよう配慮しつつ、しかし両国との協力・支援は惜しむべきではない。このバランスは微妙なところだが、ASEAN戦略の要だ。なぜならASEANもまた微妙だからである。

ASEANは茫洋として分かりにくい。本当の姿がどこにあるか、正直掴みにくい。こんな声がしばしば聞かれる。当たっていなくもない。しかしそれこそがASEANウエイなのだろう。そのようなASEANと名実ともに身近な隣人同士になるためには、それぞれの加盟国についても、もっと知ること、そして長いスパンで見ることが必要だ。

ASEAN外交には粘り強さやきめ細かさ、そして対話の継続性が何より大切になるということである。日本はもはやアジアの盟主ではないし、必要以上に指導者意識を持つこともあまりプラスにならない。しかしASEANとしっかり手を携えていくことの戦略的価値は高まることはあってもなくならないだろう》

 

【インドネシア高速鉄道、受注敗北ショック】~日・中・ASEANのこれから その2~
の続き、本シリーズ全3回。
【インドネシア高速鉄道、受注敗北ショック】~日・中・ASEANのこれから その1~
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