[古森義久]【国連特別報告『日本の女子生徒13%援交』の虚偽、真犯人誰?】~悪質かつ巧妙なプロパガンダ~
古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)
「古森義久の内外透視」
国連の特別報告者が「日本の女子生徒の13%が性行為を含む『援助交際』をしている」と発言し、日本政府から抗議されて、その言を撤回したというニュースは二重三重の意味でおもしろい。日本政府がたとえ「援助交際」というそれほど重大ではない課題であれ、国連側の主張に正面から抗議して撤回させたというのは私の知る限り、初めてのようだ。日本では国連への無条件の信仰や信奉が根強い。東京の青山にある「国連大学」の超豪華な高層ビルがその典型だろう。大学生もいない。大学教授もいない。大学の講義もない。教育活動ゼロという施設を「大学」と呼び、そのわけのわからない活動の経費まで負担する。日本の病的な国連神聖視である。
だから慰安婦問題でもクマラスワミ報告という根拠のない国連文書を通用させてしまう。国連は「平和の殿堂」、決して挑戦してはならない輝ける存在としてきたわけだ。国連機関のユネスコが「南京大虐殺」を世界記憶遺産なる制度に登録したのに対し、日本側が静観していたことも、そんな国連信仰の作用だといえよう。国連のすること、語ることはなんでも頭を下げて、受け入れるという態度だったのだ。
ところが日本政府は今回はさすがに放置はできなかった。
国連報告者マオド・ド・ブーアブキッキオ氏は来日中の10月下旬に東京で記者会見し、「子供の性的搾取につながる『援助交際』には日本の女子生徒の13%がかかわっている」と発言した。国連人権理事会に任命されて各国の児童ポルノの現状などを調べていたオランダ人の女性弁護士ブーアブキッキオ氏は日本政府がその違法行為を放置しているかのように述べたのだった。ところがそんな事実はどこにもない。「援助交際」は存在するにせよ、全日本の女子生徒の13%だなんて、そんな統計や資料は存在しない。
だがブーアブキッキオ氏は国連の代表として公式の記者会見でそんな発言をしたのだ。さすがに日本政府も黙ってはおられず、菅義偉官房長官らが抗議をし、発言の根拠の提示などを求めたのも自然だろう。日本全体の名誉を傷つけるデタラメな主張だからだ。
菅官房長官は11日の記者会見で「ブーアブキッキオ氏から『女子生徒の13%が援助交際という発言の数値などを裏づけるデータはなく、誤解を招いた』という内容の書簡が日本政府あてに届いた」と発表した。同氏のこの書簡はそもそもの発言の撤回に等しいと菅長官は総括した。国連の代表の言動にはこんないい加減なケースがあることが証明されたことにもなる。日本政府が正面から日本に対する国連のまちがった断定に抗議し、その根拠の提示を求めるという行動もきわめて稀だった。まして国連側がその非を認めるというケースはもっと稀なのである。
だが実際には国連の代表たちの言動にはおかしなケースが多々ある。国連事務総長の潘基文氏が天安門での抗日戦争勝利記念軍事パレードが参加したこともそのおかしな一例だといえよう。いずれにせよ、日本が国連の非を正すというおそらく戦後の日本の歴史でも初めての出来事が今回の騒ぎだったようなのだ。
しかしなお疑問が残る。ブーアブキッキオ氏は「日本の女子生徒の13%が援助交際」という情報をどこで、どう入手したのだろうか。日本側のだれかがこっそりと教えたという可能性がきわめて高い。日本側で自国の女子生徒のそんな極端な虚構の情報をでっちあげて、国連の報告者に語らせるというのは、プロパガンダとしてきわめて悪質かつ巧妙である。だれがそんな操作をして、日本についてはおそらくまったく無知なこのオランダ人女性にデマを吹き込んだのだろうか。
(写真引用:UN-Sicherheitsrat – UN Security Council – New York City
By Neptuul (Own work) [CC BY-SA 3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0)], via Wikimedia Commons)