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.国際  投稿日:2015/12/24

[林信吾]【戦国・江戸・明治時代のXマス】~クリスマス特別編(下)~


 林信吾(作家・ジャーナリスト)

「林信吾の西方見聞録」

執筆記事プロフィールblog

「メリークリスマス!」

こう言って、織田信長の部下たちが乾杯するシーンを見たら、どう思われるだろうか。もちろんTVドラマの話で、昨年フジTVのいわゆる月9枠で放送された『信長協奏曲』の一場面である。

原作の漫画(石井あゆみ著、小学館)は読んでいないのだが、現在の高校生がタイムスリップして信長とすり替わる、という話だ。右のシーンは「戦国のメリークリスマス」という回で、あまりに脳天気な演出と芝居(小栗旬・主演)に笑ってしまったが、今回クリスマスのことを色々調べていて、戦国時代に信長の軍勢が本当に「クリスマス休戦」を実施したとの記録があるのを知り、大いに驚かされた。

1567(永禄11)年暮れ、堺の付近で松永久秀の軍勢と小競り合いを繰り返していた時の話である。当時、堺における布教の中心人物だった,ポルトガル人宣教師ルイス・フロイスの呼びかけで、双方の陣営にいた切支丹の武士たちが、酒肴を携えて市内に集まり、一夜限りの平和な酒盛りを楽しんだという。これが認められたということは、織田信長という武将が、キリスト教の布教や切支丹の信仰に対して、いかに寛大であったかを証拠立てている。

その信長は1582(天正10)年、今やダンス芸でおなじみの(笑)本能寺の変で非業の死を遂げ、重臣の羽柴(当時)秀吉が後継者となるわけだが、1587(天正15)年にはバテレン追放令を発する。バテレンとは、ポルトガル語のパードレが訛ったもので、要するに宣教師のことだ。

戦乱の世とあって、戦場で生じた捕虜や、占領地から拉致されてきた女子供が、奴隷としてポルトガル商人に売り飛ばされる例が、後を絶たなかった。宣教師がこれを黙認していることに対して、秀吉が怒りを抑えられなかったのだと考えられている。しかしこの禁令は、いつしかうやむやになってしまい、関ヶ原の合戦(1600年)を経て徳川家康の世となっても、切支丹はしばらく命脈を保った。

しかし1613(慶長18)年、徳川幕府は禁教令を出す。これに伴う弾圧はまことに苛酷なもので、多くの殉教者を出した。徳川家康は信長や秀吉よりもはるかに用心深く、切支丹が日本を異教の支配下に置かんとする勢力の尖兵になることを真剣に憂えていた。

この結果、260年以上にわたってクリスマスを祝う習慣は日本列島から姿を消したわけだが、明治維新後、1873(明治6)年に禁教令が撤廃され、長崎の五島などに潜伏して密かに信仰を守っていた隠れ切支丹は、大部分が公然とカトリックの門を叩いた。

大部分というのは、長く潜伏している間に教義が変質し、明治になってもカトリックに復帰することをよしとしない人々がいたからで、彼らは現在に至るもカクレキリシタンと呼ばれ、独自の信仰を守っている。全てカナ表記することになっているそうだ。

話は変わるが、1896(明治29)年、正岡子規が『寒山落木』という歌集を出版し、こんな句を掲載した。

「八人の 子供むつまじ クリスマス」

これにより、クリスマスが俳句の冬の季語として認められたという。今ではスキー、スケート、ストーブなども認められているが、ご承知のように俳句は五・七・五の形式なので、クリスマスが一番しっくりくるように思う。俳句に疎いので、断言はしかねるが。

非キリスト教国である日本で、クリスマスがこれほど盛り上がっているのを見て、違和感を抱く在日外国人も少なからずいると聞いたことがある。たしかに、教会に足を運ぶことなくクリスマスを祝い、その数日後には神社に初詣に行く日本人の宗教観は、特異と言えば特異なのだろう。

しかし、私はあえて「これでいいのだ!」と言いたい。前記事(上)を読んでいただければ分かるように、クリスマスにせよハロウィーンにせよ、最初からキリスト教の信仰に立脚した宗教行事であったわけではない。布教のための方便(この方便というのも、仏教用語だが)として、古来の祭りを教会が取り込んで行っただけなのだ。もともと多神教の日本でさらに変質するのは、別に不思議なことではない。

それと、もうひとつ。イスラムの、偶像崇拝を排する教義に凝り固まって、バーミヤンの仏教遺跡を爆破したような連中に比べれば、外国からもたらされた宗教行事であろうが「いいとこ取り」をして楽しむ日本人の方が、ずっと健全だと、私は思うのである。

(この記事は
【Xマス、実はイエス・キリストと無関係?】~クリスマス特別編(上)~
の続きです。全2回)

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