[遠藤功治]【ZMP上場前夜、自動運転元年 その2】~特集「2016年を占う!」自動車業界~
遠藤功治(アドバンストリサーチジャパン マネージングディレクター)
「遠藤功治のオートモーティブ・フォーカス」
−ZMPという会社
ZMPに戻ります。ZMPというのは、谷口さんという若いエンジニアが設立したロボット技術を得意とするVCです。株式市場の噂では、2016年初頭には上場するということです。会社名のZMPとは、“Zero Moment Point”の略だそうです。何かというと、直立してバランスが取れている人間が、一歩前に進もうとする、その重心移動が起こる直前の状態を指すのだそうです。まさにこれからの完全自動運転に移行していく、その第一歩が始まる直前の状況ということでしょう。
その谷口社長、2015年11月、安倍首相を囲んだ官民対話の席に、トヨタ自動車の豊田社長や、以前筆者がここでご紹介した、セーレンの川田会長と共に呼ばれ、今後の戦略について話をされました。会社が完全自動運転に向かって進んでいること、2020年までに完全自動運転のタクシーを全国で3,000台走らせること、そのために政府に法規制などの変更を含む、戦略的なバックアップを要請しています。
これに対しての安倍首相のリアクションは“Go ahead”、即ち、自動運転というのは国家戦略、国策であるということです。ZMPという会社、この自動運転の波に乗り、究極の完全自動運転を狙うと共に、“Robot for everything”を標榜、今後、ロボット技術を核にして、様々な新しいビジネスに踏み込んでいく、完全自動運転車しかり、ドローンしかり、物流支援ロボットや、心臓モニタリングなどの医療分野しかり、目指す売上高は、現状の数十億円から、2017年に100億円、2020年までに1,000億円と、加速度的な飛躍を見込んでいます。
上場後の時価総額も、市場の噂ベースでは2,000億円超えなどという、通常では考えられないような拡大ペースが語られています。やはり、安倍政権が進める戦略特区、国策の領域に含まれる分野であることが、上場前にも拘わらず、投資心理に火をつけている最大の理由でしょう。
実は自動運転技術に関して言えば、欧州・米国がいち早く動いていました。米国ではGoogleが、欧州ではドイツを中心としたIoT(Internet of Thigs)、第4次産業革命のもと、DaimlerやBMW、VWが、着々と布石を打っていました。
AI(Artificial Intelligence、及びAfter Internet)やBig Data、Connected Carなど、次から次に新技術が革新的に出現、その中心では米国とドイツが着々と技術を磨いていた訳です。遅ればせながらようやく日本でも、SIP(Strategic Innovation Program)という自動運転の研究会が発足、政府と自動車業界による共同開発が始まった訳です。
各自動車メーカーによる個別の技術開発競争と、政府や警察なども含めたインフラや法規制の緩和などの協力分野、この双方を推し進めて行く、というものです。ここで問題なのは、自動運転と言っても、様々なタイプの自動運転があり、大手自動車メーカーが考えている自動運転と、GoogleやZMPが考えている自動運転は別物である、ということです。
自動運転と言っても、その内容は様々で、主に加減速・操舵・制動面での自動化の水準により、Level-0からLevel-4までに分類されます。何らかの自動化が始まる前の段階、ドライバーが全ての運転操作を行うのがLevel-0ということになります。Level-1とは“特定機能自動化”とも呼ばれ、クルーズコントロールなど、一部の自動化が備わった車を指します。Level-2とは、“複数機能自動化”で、自動ブレーキや自動駐車など、現在、多くの自動車メーカーが、量販車で実践出来ているレベルを指します。
Level-3とは、“限定的自動運転”ともいい、加減速・操舵・制動の全てを車が行うことが出来るが、運転席には人が存在しており、機能限界(緊急事態)になった時には、ドライバーがOverrideして対応する、という水準を指します。内外殆どの自動車メーカーは、この水準を目指しており、どんなに自動運転の水準が上がっても、ドライバーが車内にいることを原則としています。
これに対してLevel-4というのは、“完全自動運転”で、全ての機能は車が行い、人は全く関与しない、というもので、ZMPやGoogleはこれを目指している訳です。つまり、同じ自動運転と言っても、トヨタや日産が目標として開発しているものと、ZMPやGoogleが狙っているものとは違う、ということです。今一つ重要なのは、Level-4はLevel-3の次に来るものではない、継続的技術進化ではない、ということです。
2015年10月の東京モーターショー前後で、トヨタ・ホンダ・日産の3社が、メディアの記者を乗せて、主に首都高で自動運転の走行実験を実施しましたが、これは全てLevel-3の自動走行。つまり、技術的には車は自動で走行できるのですが、ドライバーが常に乗車していて、いつ何時でもOverrideできる、ないしはマニュアルでドライブ出来る、というものです。ですから、原則は、アルコールは禁止ですし、車の免許を持っている人が常に車内にいる、ということが必要です。
Level-4の自動運転は、全く人が運転に介在しないことを前提にします。よって、アルコールOK、居眠りOK、子供だけでもOKな訳です。Level-3もLevel-4も、車が完全に自動で運転“出来る”という、技術的水準自体に於いては、大きな違いはありませんが、Level-3があくまでも、ドライバーとAIが共に共存することで、安全運転の確度を最大化するのに対し、Level-4は“人を運転から完全に排除する”ことによって、“人間の判断ミス”なるものを完全に消す、という点で、この2者は根本的に違うものなのです。
2014年、日本国内では自動車事故が57万件発生し、交通事故による死亡者数は4,000人強、負傷者数は70万人を超えています。この交通事故のうち、約90%が人間の判断ミスによるものと言われています。仮にそうならば、人間の判断が車の運転に介在しない方が、自動車は安全である、とも言えます(勿論、自動運転技術が完璧との前提に立てば、ですが)。
運転の楽しみを維持しつつ、安全対策の最適化を目指すと大手自動車メーカーがLevel-3の自動運転を主張する一方で、交通事故の90%を占める人間の判断ミスを全否定することで、完全無人運転のLevel-4を目指すZMPやGoogle、人間の介在を完全に排除するという意味で、Level-4は自動車産業のGame Changerであると言えるかもしれません。
(【ZMP上場前夜、自動運転元年 その3】~特集「2016年を占う!」自動車業界~ に続く。
【ZMP上場前夜、自動運転元年 その1】~特集「2016年を占う!」自動車業界~
も合わせてお読みください。本シリーズ全4回)
※トップ画像:©ZMP、ARJ
※文中画像上:エアロセンス社製ドローン AS-MC01-P ©ZMP、ARJ
下:Level-3とLevel-4 ©ZMP、ARJ