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.社会  投稿日:2015/12/30

[相川俊英]【日本“国内移住新時代”に突入】~特集「2016年を占う!」地方自治~


 

相川俊英(ジャーナリスト)

「相川俊英の地方取材行脚録」

執筆記事プロフィール

これまで日本人の転居といえば就職や転勤・転職、進学、結婚などが主たる理由であった。田舎暮らしに憧れて都市部から地方に移り住むという人もいるが、ごく少数にとどまっている。人の移動は、地方から都市、都市から都市へと一貫していた。そうした日本人の国内移住の様相が2016年に大きく変化すると思われる。移住者の数はもちろん、移住先や移住動機などが多様化し、新しい時代に入ったからだ。

新タイプの移住者は2つに大別できる。ひとつは本人たちの意思よりも別の事情が優先されての移住である。つまり政策的な誘導によるものだ。

「地方創生」を掲げる政府は、具体策の1つとして「日本版CCRC(Continuing Care Retirement Community:)」(注1)を提唱し、その実現を目指している。都市部の高齢者が健康なうちに地方に移り住み、地域共同体をつくるというものだ。

そうした受け皿つくりなどに地方自治体が活用できる「新型交付金」を新設し、2016年度当初予算案に1000億円計上した。さらに、健康ではない高齢者の地方移住も大きく動き始めている。介護施設不足に直面する都市部の自治体が地方に特養を整備する施策に踏み出したからだ。結果的に要介護の高齢者を地方に移住させることになる。

こうした高齢者の受け入れに名乗りをあげる地方の自治体も少なくない。雇用の促進や人口増による地域活性化を期待してのことで、かつての企業誘致と同じような雰囲気になっている感も否定できない。国と都市部の自治体、そして地方の自治体の3者に大きな齟齬がないため、都市部の高齢者の地方移住(Kターン)は今後、進むことになるだろう。既に始まっているモデル的なケースはメディアに大きく取り上げられているが、実際にはそう広がらないのではないかとみている。

官主導による高齢者移住と対照的なのが、もう一つの新タイプの移住者たちだ。こちらも都市部から地方への移住なのだが、これまでの田舎暮らし・自然志向派とはだいぶ異なる。会社勤めや自営、自由業といった現役世代で、子育て中の人たちも多い。暮らしやすさや暮らしの楽しさを求め、住まい先を積極的に移る新しいタイプだ。ICTの進歩、移動の利便性の向上、さらに価値観の多様化などが背景にある。都市部に勤務しながら地方に住むことや在宅勤務、さらには週末居住などが可能となったからだ。住まい先を自由に選択し、お気に入りの場所に転居する人が増えているのである。

移住者の獲得を目指す地方自治体にとって、彼らこそ一番のターゲットとなる。それで各自治体がいろんな優遇策を揃えてアピール合戦を展開しているが、実はあまり効果がない。彼らが最も重視することは、カネやモノではなく、その地域に住んでいる人たちであるからだ。明るく楽しく暮らしているかどうか、そして、魅力的な住民がいるかどうか。移住者は面白くて魅力的な人がたくさん住む風通しの良い地域に、まるで吸い寄せられるように集まってくる。

付け焼刃の窮余の策で移住者を集めることはできないし、できたとしても一過性におわる。今の住民ひとりひとりが生き生きと暮らせるまちづくりを地道に重ねることが、外から人を呼び寄せる最善・最短の施策である。

地方は人で活性化し、なおかつ、人で衰退もするし、消滅してしまうことすらある。そうした当たり前の事実が鮮明になって表れる2016年ではないか。

(注1)CCRT
健康な時から介護時まで移転することなく安心して暮らし続けることが出来る米国のシニアコミュニティ。全米で約2千ヵ所、約60万人の居住者、約3兆円の市場規模。「日本版CCRC」は、CCRCを日本の国民性・地域性・制度に適合させ、普及を目指すモデル。国の地方創生に向けた「まち・ひと・しごと創生総合戦略」にも「日本版CCRCの検討」が明記されている。
株式会社三菱総研 「日本版CCRCの実現を目指す政策提言を発表」

http://www.mri.co.jp/news/press/teigen/017863.html


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