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.経済  投稿日:2014/8/20

[田村秀男]<日本列島を覆う空き家の活用で地方創生>地方の空き家の市場価値を無から有に転じさせるきめ細かい方策を


田村秀男(産経新聞特別記者・編集委員)|執筆記事プロフィール

 

お盆休みに帰郷、ご先祖への墓参りは、地方出身者にとって欠かせない。

高知県の山沿いの小さな町で育った筆者もそうだ。帰るたびに、竹馬の友や縁者から「こちらにはだれも住んでいない田舎家が一杯あり、タダ同然で譲り受けられるし、改装したら快適に住めるよ」と勧められる。なるほど、「帰りなんいざ、田園まさに荒れなんとす」と、かの陶淵明の故事を思い浮かべながら、さっそく探索。

山間部の集落に入ると人気(ひとけ)というものをまるで感じない。立派なつくりの知り合いの旧家も目に入ったが、これも無人。そこに移り住んだとしよう。生活の足は、となると自分で車を転がして狭く曲がりくねった町道を走らせて片道30分、国道沿いのスーパーまで往復しなければならない。

と考え込みながらいくつ目かのカーブでハンドルを切ると、レンタカーの脇腹がガリッ。ひしゃげたガードレールの突起部分に気付かなかったのだ。たちまち、戦意喪失。

それでも何とか気を取り直して、比較的交通が便利なふもとの町に下ってみると、半ばゴーストタウンと化している。昔は映画館が2件もある田舎の「○○銀座」だった旧街道沿いの商店街は、広大な駐車場付きで国道沿いにオープンした広々とした大型スーパーに客をとられ、空き家だらけだ。

家業を継いでも商売にならないから、子や孫は大都市に出る。そして蔵作りの空き家だけが残る。この光景は、日本全国いたるところで見られる。

ちなみに、総務省の「2013年住宅・土地統計調査」によると、全国の空き家数は過去最多の820万戸(マンションなどの共同住宅の一室も含む)で、空き家率は過去最高の13.5%に増えた。都道府県別で空き家率が最も高かったのは山梨県(17.2%)で、愛媛(16.9%)、高知(16.8%)で、なるほどわが郷里は最悪水準である。

価格が一定水準まで下がれば買い手がつくのが市場原理というものだが、住居としての資産価値は十分あるはずなのに買い手がつかないから、市場価格はゼロ。こうした各地の住宅価格を一括して調べ、国土交通省は「住宅価格指数」を最近試験的に算出し始めた。

グラフでは住宅価格指数の全国平均旧市街地と東京都を対比してみた。

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すると、「アベノミクス」が始まった2013年1月以降、指数が上がっているのは東京都だけで、全国値は13年9月以降下がり続け、長期化する資産デフレのトレンドから抜け出せないでいる。関西、中部の大都市圏もやはり全国の動向と傾向は同じである。

要するに、東京の「独り勝ち」なのである。

その背後には、上記のような値のつかない空き家が全国いたるところにあるのに、東京では狭苦しくて価格が高い住居がひしめいているはずだ。もちろん、東京の都区部でも、空き家は散見するが、いつでもよい値で売れる、つまり市場価値が十分ある点で地方とは決定的に異なる。

東京など巨大都市から、より安く広く、快適に住める地方に人口移動が起きるというのが、市場原理というものである。各地域や集落に人が住めるようにする国と地方自治体の政策があってこそ、住まいの市場原理が機能する。人、特に現役世代がいない自治体は存続しえない。山も川も荒れ、「美しい日本」はずたずたにされ、荒廃するだろう。

安倍晋三首相は遅ればせながら、「地方創生」を言い出したが、カネをばらまかなくてもよい。地方の空き家を一つでも多く活用できるようにし、市場価値を無から有に転じさせるきめ細かい方策こそが重要ではないか。

上記旧市街には、大阪での大会社エリート・キャリアに見切りを付けた40歳の地元出身者が、奥さんと子供2人を連れて、古家を改造して移り住んだばかりだ。オフィス兼用とし、起業コンサルタントとして企業の育成プロジェクトに励んでいる。

対価は、地鶏卵数ダースなど「現物」が圧倒的に多いそうだが、地元の若者たちの間でぽつぽつと起業への関心が広がり始めている。現役世代が住んでこその社会という、単純だが忘れられている経済常識を思い起こさせられた。

 

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