欧州でポピュリズム台頭か? 相次ぐテロで
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー(2016年3月28日-4月3日)」
今週の焦点は31日からワシントンで始まる核セキュリティサミットなのだろうが、筆者は懐疑的だ。前回は2年前にオランダで開かれたが、その後何か進展はあったか?このような会議はアリバイ作りに過ぎない。勿論、開かないよりはましだが・・・。
それよりも今欧州、特にベルギーで起きていることの方がはるかに重要だと筆者は考える。27日、ブリュッセル中心部でテロ犠牲者を追悼するため集まった群衆に、極右の数百人が押し寄せ、警察が放水で排除する騒ぎがあったからだ。
以前なら極右は静かにしていた。彼らが行動を起こした背景は何か。これだけテロが続けば、綺麗ごとなど言っていられない、ということか。こうした大衆の動きを利用して欧州のダークサイドであるポピュリズム(大衆迎合主義)が再台頭しなければ良いのだが・・・。
〇欧州・ロシア 〇インド亜大陸
30日にEU・インド首脳会談がブリュッセルで開かれる。インドと欧州の関係は良好だが、EUがインド洋の安全保障に貢献する可能性はあるのか。両者の関係は少なくとも当面経済関係に限られ、米印のように安全保障の次元に進むとは思えない。
インド関連で重要なことは、インド・パキスタン関係、パキスタン・イラン関係、サウジ・イラン関係、インド・イラン関係を地政学的分析し直すべきことだろう。その意味でも、この地域でパキスタンが果たす役割は無視できない。
パキスタンはインドとの関係改善を進める一方、イランとサウジ関係の改善にも関心を払っている。更に、パキスタンは中国との良好な関係を維持しつつ、米国にも秋波を送っている。日本はイスラマバードの強かさをもっと学ぶべきだと思うのだが・・・。
〇中東・アフリカ
2-3日にインド首相がサウジアラビアを訪問する。緊密なパキスタン・サウジ関係に楔を打ち込もうとするのか、それとも、険悪化するイラン・サウジ関係を仲介しようとするのか。中東でのインドとパキスタンの動きは意外に要注意かもしれない。
〇アメリカ両大陸
先週末は民主党のサンダース候補がアラスカ、ワシントン、ハワイ各州で予想以上の差でクリントン候補に圧勝した。トランプ候補が乗る「反ワシントン」の波は共和党主流だけでなく、民主党主流、すなわちクリントン候補にも逆流となっている。どうやら今年の大統領選挙は荒れ模様(messy)となりそうだ。
〇東アジア・大洋州
日本では在日米軍に関するトランプ発言に反発が出ている。トランプ候補はインタビューで、「米軍の駐留経費負担を大幅に削減しない場合、在日米軍を撤退させる」と述べるとともに、日本の核兵器保有を容認する発言もしたと報じられたからだ。
日本に関するトランプ候補の認識は10年から20年古く、日本外務省関係者が「コメントに値しない」と述べた理由も頷ける。トランプの側近に外交・安保政策の専門家がいないことは明らかだが、これを言ったところで、トランプ問題は解決しない。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
あわせて読みたい
この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。