[安倍宏行]【オランダ・リポート④】再生治療、医療シミュレータ、組織工学、救急集中治療、診察待ち時間ゼロ〜オランダの最先端医療の現場から、日本の成長戦略「医療」を考える
Japan In-Depth編集長
安倍宏行(ジャーナリスト)
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オランダ全土を駆け巡り、医療の実態をつぶさに見て回る現在敢行中の安倍宏行オランダ取材ツアー。前回・前々回・前々々回・に続き、第4回目のリポートになります。
マーストリヒト大学医療センター(Maastricht UMC)で、医療・看護用シミュレータ(Medical Simulator:練習用マネキン)を使った実習を見学した。対象は医学部の学生。
一次救命処置用(BLS: Basic Life Support)心肺蘇生全身モデル(CPR: Cardiopulmonary Resuscitation Full-Body Model)は、人工呼吸、心臓マッサージ、胸骨圧迫などの処置の結果を点数化してWi-Fiでスクリーンに飛ばし、研修者間でそのスコアを競わせているのは興味深かった。除細動器は日本でも駅や人が集まるところには標準装備されているが、心肺蘇生術はのシミュレーションを行った人は多いとは言えないだろう。地域社会や会社単位で多くの人が経験することが必要だと感じた。
また、救急集中治療シミュレーション室も良くできていた。複数の医学生は医療用マネキンを前にチームとしてどのような処置を施したらいいのか、判断する。適切な処置を迅速に行うためにチームワークが試される。トレーナーはガラス越しに学生たちに指示を出す。極めて実戦的なシミュレーションに仕上がっていた。
さて、今回のハイライトは何といっても再生治療の現場を見学した事だろう。訪れたのは、アイントフォーフェン工科大学(Technical University Eindhoven)。オランダの組織工学(Tissue Engineering)の最先端研究を行っている。この分野は日本を含め各国間の競争が激しい。特に、心臓疾患の治療が世界的にも急務であり、心臓再生医療についての研究に力を入れているとのことだった。日本の研究は世界でも最高峰だと言われているが、うかうかはしていられない。
次に訪れたのはフィリップス社。最先端の医療用機器を見学したが、初日に見たPET/MRIのような最新型医療機器は海外メーカーが開発で抜きんでいているようだ。医療は日本の成長戦略と言われているが、ソフト、ハード含めて世界一か、と問われると自信がない。
今回訪れたどの病院も驚くほど綺麗で、診察の待ち時間を限りなくゼロにすることを目標としていたり、電子化された患者のカルテをiPadに転送し、医師がそれを持ち運んでいたり、より効率的で患者にとって快適な環境作りに熱心に取り組んでいた。オランダからまた一つ学んだ気がする。
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