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.国際  投稿日:2016/11/23

諸国の結婚年齢事情 年齢と権利義務の世界事情その3


林信吾(作家・ジャーナリスト)

「林信吾の西方見聞録」

前回、選挙権が付与される年齢を18歳に引き上げることについて、反対意見を開陳された内閣参与・飯島勲氏に批判を加えたところで、紙数が尽きてしまった。少し補足させていただくと、18歳ではまだ思考が未熟であるから、選挙権は与えない方がよい、という飯島氏の立論は根拠がない、というのが私の論旨である。

かつて、英国で婦人参政権運動が盛り上がった時、こんな反論をした人がいた。「大学教授と売春婦に同じ一票ずつを与えることが、健全な民主主義と言えるのか」今こんなことを言ったら、炎上どころでは済むまい。反論するも愚かであるが、全ての男性が大学教授並みの学識を備えているわけではないし、全ての女性が売春婦であるわけでは、もちろんない。

飯島氏は現代人であるから、立派な18歳もおそらくいるだろうが……という言い方をしてはいるのだが、これでは、しょうもない20歳が立派な25歳になれるという根拠があるのか、という私からの批判に対する答えにはならないだろう。

さて、今回なにを述べたかったかと言うと、年齢と権利義務の関係性について言うと、男女で差があるケースも見受けられることだ。

たとえば英国女性の選挙権は、第一次大戦後、まずは30歳以上に付与され、やがて男性と同様の25歳、さらには18歳に引き下げられた。

より典型的と言えるのが結婚可能年齢で、わが国でも男性は18歳、女性は16歳からとなっている(いずれも、両親の承諾がある場合)。これは世界的に見ても、一般的と言えるが、男女差を設けない国も多い。米国では、州によって法律が異なるのだが、男女とも18歳、という例が多いという。英国では、男女ともに18歳から結婚できるが、両親の承諾があれば16歳から可能だ。スペインに至っては、なんと14歳から可能だったが、最近16歳からになった。

近い将来、EU加盟国は18歳からで統一されると見られている。

一般的に成人年齢が18歳なので、結婚だけ例外にしなくてもよい、ということのようだが、おそらく将来的には、これがグローバル・スタンダードになるのだろう。

中国では、男性は22歳から、女性は20歳からと、いずれも日本より高年齢に設定されているが、これは革命以前に、人身売買も同然に年端も行かない少女を「嫁」とする、悪しき風習があったことへの反省が込められていると考えられる。台湾では、男女ともに21歳からと定められているが、両親の承諾があれば18歳から可能である。

両親の承諾の有無に関する規定は、実は多くの国に存在し、エジプトなど、そもそも結婚には両親の承諾が必要とされている。まず、男女差の問題から見て行くと、一般的に女性の方が成熟が早い、という理由づけがなされているようだが、世界的には、これは少数意見であることはすでに述べた。

同意のある性交渉についても、14歳から合法としている国が多いが(日本の刑法でも、14歳未満の婦女を姦淫した場合は強姦罪が成立する)、結婚が16歳からなら、これも16歳からにすべし、という意見は結構根強くある。女子中学生が妊娠するドラマがヒットしたような国では、あまり現実的でない、などと言われるかも知れないが。

両親の承諾については、割と多くの国で、個人の意志とは別の規定が設けられているが、大きく分けて、結婚とは家と家の結びつきであるという考え方が今も残る東洋的社会(もちろん日本を含む)でよく見られるか、英国のように、とりわけ労働者階級にあっては、義務教育を終えて16際になったなら、もう一人前だということで家から出て行くことになる、という考え方を残している社会もある。イスラム古典法では、9歳からの結婚を認めているそうだが、イスラム諸国でこれがそのまま法制化されているという例は、寡聞にして聞いたことがない。

お分かりだろうか。選挙権・被選挙権年齢にせよ、結婚年齢にせよ、社会の現実とあまりかけ離れた規定は受け容れられないのだ。日本では、選挙権だけでなく成人年齢そのものも18歳に引き下げてはどうか、という議論があるが、これに対して、「高校生の飲酒喫煙を認めるのか」といった反論だけでは、あまり説得力がない。バイク免許は法的に16歳から取得可能だが、実際には生徒に免許所持を禁じている高校も多い。成人の権利義務についての議論を、飲酒喫煙とか、矮小化したそれに閉じ込めるべきではない。

 

その1その2も合わせてお読み下さい。)


この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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