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政治  投稿日:2016/11/4

「自衛隊の駆けつけ警護」は本末転倒 自壊した日本の安全神話 その9

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林信吾(作家・ジャーナリスト)

「林信吾の西方見聞録」

日本は治安のよい安全な国だ、と言われてきたものが、最近どうも信じられなくなってきている、との話を続けてきた。折も折、昨年の安保法制成立を受けて、南スーダンにおけるPKO活動に従事する自衛隊に対し、新たな任務として「駆けつけ警護」を付与する準備が進んでいる。

国連職員や、他国の警察部隊が武力攻撃を受けたような場合、自衛隊が応戦したり、暴徒鎮圧などの任務も行うのが、駆けつけ警護の具体的内容だ。現政権、とりわけ稲田防衛大臣のこれまでの姿勢から考えて、国会などで多少の反対論が出ようとも、強引に事を進めるのではないか、と見る向きが多い。

また、消息筋によれば、自民党内においては、くだんの安保法制成立を受けて、「憲法9条に改正には、まだ当面、踏み込まなくてよい」

という声も聞かれるようになってきた、という。これまで、世に言う解釈改憲でもって、徐々に自衛隊の軍事的機能を拡大してきたわけだが、とうとう海外での武力行使までが可能となった。

そうであれば、改憲反対論の焦点となるであろう9条の問題は当面棚上げとしてしまい、公明党がかねてから主張している「環境権」の付与とか、国民の理解が得られやすい改正を実施すればよい。まずは「日本国憲法を改正した」という既成事実を作りたいのであろう。こういう態度が、国際的な信用問題になりかねず、また現場の自衛隊員をきわめて厳しい立場に追いやる、ということが、どうして理解できないだろうか。

まず大前提として、私はPKO活動そのものには賛成である。これは戦争と違い、治安が不安定な国において、選挙やインフレ整備などを安全に遂行するための、国際的な警察活動と言うべきものだ。その名も「国際平和維持活動」である。だからこそ、実際に内戦が続いているような国や地域においては、この活動は継続不可能とされ、武装した国連治安維持部隊の出番となる。こちらは、名前こそ治安維持であっても、れっきとした軍事活動なのだ。

ここまで読まれた読者諸賢は、私がなにを言いたいか、もうお分かりであろう。安保法制下にあろうとも、自衛隊は依然として憲法の制約下にあり、日本国政府はこれを軍隊であると認めていない。にも関わらず、法的にも機能の面でも軍隊にしかできない駆けつけ警護を、自衛隊に担わせようとしている。これのなにが問題かと言うと、たとえば自衛隊員が武装勢力によって捕らえられる、という事態が生じたような場合、国際法上、捕虜としての扱いを求めることが難しい。端的に、正規軍の軍人でない人間が武装して攻撃を加えてきた(相手方から見れば)、となった場合、これはテロリストと同列に見なされ、問答無用で射殺されても致し方ない。

まさかとは思うが、「どのみち相手が、ジュネーブ条約やハーグ陸戦条約などを遵守するはずがない」などという論理で、自衛隊員が武装勢力に捕らえられる可能性を無視したのではあるまいか。「捕虜になった場合の対策」を欠いた杜撰な計画のもと、自衛隊員は南スーダンに送りこまれるのだ。

一方で、自衛隊員の側が、誤って民間人を銃撃してしまったような場合は、どうなるか。法治国家であれば、当然、これは軍事裁判所の管轄となる。これにはふたつの側面があって、まず、一般市民であれば、他人を銃で撃っておいて、過失致死傷罪で済むわけがない。一方では軍人の場合、上官の命令に従っての発砲それ自体は、違法行為と見なされない。要するに市民社会と戦場では、善悪の判断基準それ自体が異なるのであって、専門の軍事裁判所を設けることなく、いつ戦場になるやも知れぬ地域に自衛隊、それも戦闘部隊を送り出すなど、国際社会の理解が得られるはずがないではないか。

現在のような、安保法制を法的根拠として自衛隊が海外で武力行使をすることを可能とした体制は、日本の安全保障に寄与しないどころか、逆効果にもなりかねない、と私は断言する。報道によれば稲田防衛大臣は、南スーダンを視察に訪れたものの「不測の事態」を考慮して、ごく短時間で立ち去ったという。しかし国会答弁では、「戦闘はまだ起きていない」と言い張っている。300人以上が犠牲になった武力衝突も、戦闘ではない、と。「平和ボケ」という言葉は、本来こういう人を指して使うべきではないのか。

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この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト

1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。

林信吾

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