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.国際  投稿日:2016/11/24

ワシントンvs国民の対立は続く

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Japan In-depth 編集部(坪井映里香)

1年半の長い選挙戦が日本時間の119日、終結した。勝者はドナルド・トランプ氏。この結果を受け、スタジオに慶應義塾大学法学研究科後期博士課程の松田拓也氏、さらに国際大学教授の信田智人氏、ニュージャージー州在住のジャーナリスト井上麻衣子氏とスカイプをつなぎ、安倍編集長も加えた4人でその勝因と今後を分析した。 

松田氏は、この夏までワシントンDCのジョンズホプキンス大学ポール・H・ニッツェ高等国際関係大学院(SAIS)に留学していて、現地で大統領選をウォッチしていた。そんな彼が「想定外の出来事。」と驚く。トランプ氏が本当に共和党の候補になり、そして大統領になるというのは、多くの専門家、世論調査も予想できておらず、メディアもトランプが勝てないことを前提に書いていたという。

 信田氏も、「専門家であればあるほど予想できなかった。」と同意する。選挙人の数でおそらくトランプ氏は勝てないだろうという見方が強かったからだ。そんな中で、トランプ氏が大統領になった勝因として、アメリカ在住のジャーナリスト、井上氏は「選挙活動ではなく一大ムーブメントだった、ひとつの流れを作った。サンダースもそうだった。反エスタブリッシュメントがトレンドとしてもりあがった。クリントンはそれに対するムーブメントが作れなかった。」と述べた。これはトランプ氏自身も勝利演説のときに言っていたことだ。

信田氏はトランプ氏の勝因として、三つの要因を挙げた。それは、

1,  アメリカが白人社会でなくなる恐怖を白人がずっと感じていたこと。

2,  経済的な要因。20年くらいミドルクラスとそれ以下の層の実質賃金が上がっていないことに対する不満。それによる格差社会の広がり。

3,   不法移民。トランプ氏は今まで政治的に文句を言えなかった移民問題に対して、白人が言えなかったことを代弁してくれたこと。

特に3の不法移民については、東海岸のニュージャージー州在住の井上氏も、「数はいる。マンハッタンで出前を運ぶ人は移民が多い。」と話す。アメリカに住んでいた松田氏は、「飲食店なども英語よりもスペイン語が通じるところもあった。」と移民の広がりを感じたという。松田氏は、信田氏の1の要因について「白人の既存のアメリカの社会が変わっていってしまっていくという恐怖感が(選挙の結果を)生んだ。」と述べた。

しかし、移民を受け入れてきたことがアメリカの活力になったのではないか、移民を追い出すと活力を失われるのでは、と安倍編集長は指摘。それに対して信田氏は、「移民はまず最下層。(移民が増えることによって)一世代前のアメリカ人よりも今の世代のアメリカ人のほうがいい暮らしをしているというアメリカンドリームがそうなっていない。新しい移民が入ってくることによってランクアップされるかというとそうではない。そこに大きな問題がある。」と答えた。

下層とされるはずの移民が増えて、自らの階級が上に上がらない現状、つまり底上げがされていないことに対する白人層の不満があったということだ。

また、トランプ氏の勝利が決まった際、日本でも「番狂わせ」「衝撃」といった見出しが回り、前々からヒラリー氏が勝つだろうという風潮だった。アメリカのメディアも、たとえばNYタイムズなどは80%以上の確率でヒラリーが勝つ、と書いていたようだ。これはメディアの失態ではないか、という安倍編集長の質問に対し、信田氏は「メディアの失態として二つ挙げられる。」と答えた。それは、

1、 終始トランプを道化者として真剣に扱わなかったこと。

2、メキシコに壁を作るなどといった発言によって、ヒスパニックとかアジア人の投票が増えることに注目したこと。投票率が従来低かった白人労働者層に注目しなかったこと。

結果、白人労働者は投票に行き、トランプ氏は彼らから圧倒的な支持を得た。

メディアが注目した、ヒスパニック。彼らが多い州で、ヒラリー氏は必ずしも勝てるわけではなかったようだ。現に、フロリダはヒスパニックの数からしてヒラリー氏優勢と伝えられていたが、トランプ氏が勝利。それに対して井上氏は、「リタイアした白人」の存在があったと述べた。フロリダ州ではリタイアした年齢層の高い白人が一定数移住していて、ヒスパニックよりも彼らが優勢だったと分析した。

信田氏も、「ヒスパニックはトランプに対する反感を持っていると思う。ただヒスパニックが全員ヒラリーに入れているかといわれればそうではない。」と述べた。

また、ヒラリー氏支持が多いとされていた女性だが、井上氏によると、「周りでは、(トランプは)やはり暴言が激しいのでそれに対して、支持するというのはいえない。」とした上で、「ただ、女性だからといってヒラリーを応援したくない、女性だから応援するわけではない。大統領にふさわしい人を選ぶ。」と考える人もいた、と述べた。

リアリティショーの司会をしていた経験もあり、テレビ慣れしていたトランプ氏は、もともとマスコミの操縦方法は長けているといわれていた。が、暴言を吐いて人気急降下する。しかしそうならなかった。安倍編集長は、この結果を受けて「全部計算ずくなのでは。」と考える。信田氏は、「そうかもしれない。彼の発言が飽きられなかった。」と述べた。テレビやインターネットのメディアは長い複雑なメッセージではなく、いかに短いメッセージが効果的に伝わるかが重要になってくる。それをうまく作り上げたトランプ氏のメディア戦術を信田氏は、「まさに小池劇場のようなトランプ劇場」と評した。

それに加え、トランプ氏は女性にまつわる噂話が多くあり、話題を呼んだ。松田氏は、「(選挙に)響かなかったのは意外。」としたが、安倍編集長は、「ゴシップを(メディアは)こぞってえんえんとやっていた。タダで宣伝してくれているようなもの。トランプ陣営の目論見だったのでは、との疑念を抱くほどだ。」と述べた。信田氏は、そういった状況を受けて、「暴言を吐けばはくほどメディアの注目を浴びる。注目を浴びれば支持率が上がるというサイクルになった。」と振り返った。

また、ヒラリー氏の戦略について井上氏は、「そういった彼の暴言をヒラリー側がうまく利用した。」とした。ヒラリー陣営は莫大なお金をかけてCMをつくり、CMでトランプ氏の暴言に反論、ネガティブキャンペーンをして自身を持ち上げるといった手法を用いた。CMは朝から晩まで流れていたそうだ。しかし、井上氏は、そういったCM戦略に国民は、「惑わされなかった。」と話す。

信田氏は、今回の選挙を「これほど不人気な候補者が2人そろった選挙は歴史的にない。」と述べた。ヒラリー氏が予想以上に不人気だったのか、という安倍編集長の指摘に対し、信田氏は「夫(ビル)が不人気。」というヒラリー氏の不人気要因のひとつを挙げた。アメリカでは、「最近の選挙はブッシュ王国とクリントン王国の対立ではないかという見方がある。」という。つまり、ブッシュ家は父子と大統領を勤め、今度は大統領経験のあるクリントン家の妻、という同じ家の人がぐるぐる回るというのはよくないのでは、という見方だ。現に、それを見越していたのか、ジェブ・ブッシュ氏は早々に大統領選から撤退した。

大統領選挙と同時に行われたアメリカの議会選挙。これも上院・下院両方共和党が過半数を獲得。アメリカでは議会の権限が強く、大統領にとって議会との関係も重要だ。しかしトランプ氏に対する反感から、共和党内で対立が生まれているという見方も強い。信田氏は、「トランプもいつ誰に対してどこで、によって発言をころころ変えている。大統領になったらなったで、ちゃんとした立場をとるのではないか。」と見ている。

また、大統領になって最初の仕事として政府の編成がある。これのほとんどが上院の承認が必要なため、協力せざるを得ないという。しかし、ホワイトハウスの高官は議会の承認が必要なく、誰がつくかによっては内政や外交がめちゃめちゃになる危険性があると話す。特に、大統領権限が強い外交の分野でそれがいえるという。

以前、共和党の外交安保のエリートはトランプ氏を支持しない共同署名の手紙を書いた。それを受け松田氏は、外交の専門家、エリートはトランプ氏についてくるのか、と疑問を呈す。信田氏は、「トランプの外交アドバイザーはほとんど軍人、ペンタゴン関係者。その人たちが(政府の)長官といったポストはおそらく勤められない。」とした。上院の承認が得られないのでは、という考えだ。そうなった場合、「元々いる共和党のエスタブリッシュメントをおかざるをえない。」という。

また、大統領となった重みというのを感じざるを得ない。」とトランプ氏側も歩み寄ると信田氏は考える。新しい国務長官、国防長官についても、「(誰になるかは)本当にわからない。」とした。ただトランプ政権が1期で終わる可能性も高く、4年間トランプ政権に入ったことによって味噌をつけたくないと考える共和党員もいるという。4年間だけでもいいと言って入ってくる人たちがどれだけいるか、と信田氏は述べた。

日本の安全保障の問題についても、信田氏は楽観視しているという。お金を出せ、核武装しろ、と暴言を吐いていたトランプ氏だが、「トランプの外交アドバイザーである訪日したマイケル・ギーンが言っていたが、大統領になったら日米同盟ちゃんとやっていくと言っている。」と信田氏は述べた。井上氏も、「実際レーガン大統領が選ばれた時も似た感じだった、いざ大統領になったら意外とちゃんとしていて人気者になったという前例もある、おなじようなパターンになる可能性も。」と同じ見方を示した。安倍編集長は、核の傘に頼り、日本の安全保障はこのままでいい、と保守的に考える日本に目を向け、「ショック療法というか、日本の安保を考えるきっかけとなったのでは。」と考える。アメリカのオフィシャルスタンスとしても、たとえば安保法制については日本政府が考えること、アメリカは干渉しないというスタンスだった。大統領が自ら日本の安全保障について介入してくる可能性も出てくるかもしれないと信田氏は話す。

また、TPP法案が先日衆議院で採決されたが、信田氏は「トランプの場合は白紙になる可能性もなきにしもあらず。」と述べた。「今回のTPP交渉、日本はかなり有利な結果で終わっている。日本の交渉団がうまくやった。それを見直すことになりかねない。」と続ける。井上氏は、「アメリカの一般の人はTPPよりNAFTA(アメリカとメキシコとカナダの自由貿易協定)の再交渉。TPPは知らない人も多い。」という。

TPPはもともとAIIB(アジアインフラ投資銀行)に対抗した、中国包囲網的な側面も持っていた。しかし、オバマ氏からトランプ氏に大統領が代わったことで「中国があれだけ東アジアで覇権を持ちたいなら持たせればという風に転換する可能性がある。国務省や国防省が反対するが、次の2020年の再選の時、そっちの方が選挙に有利となった場合そういう方向に転換する可能性がある。」と信田氏は指摘した。それを受け松田氏は、「アジアのリバランスの要、TPPがどうなるかわからない以上、日本は真の外交力が問われている。」と述べた。

アメリカの内政に話は移り、「アメリカの政治システム、政党システムが危ういのでは。」と松田氏が指摘。それは、異例とも言える政治経験のないトランプ氏が大統領になることによるものだ。アメリカの民主主義はどこに行くのか。信田氏は、従来の二極化構造は、保守とリベラルの対立だったが、トランプ政権では、「ワシントン対国民となる。ワシントンのエスタブリッシュメントを敵に回す。まさに小泉劇場。」と述べた。「自民党をぶっ壊す。」と豪語し既存の政治家が行っていたことを壊していった日本の小泉純一郎氏と手法が似ているという。

日本における永田町の論理と同様、アメリカでも、インサイド・ベルトウェイという表現があるように、ワシントン周辺と一般国民と考え方にかい離がある。現に、ワシントンでは9割以上がヒラリー氏を支持していた。信田氏は、トランプ氏はそれを利用し、常に敵を作って、国民の支持を得て政治を回しているのではないか、と話す。

しかし、ニューヨークなどの大都市ではすでに反トランプデモが発生している。国民の中に分断を生み、国内が不安定化するのではないかと安倍編集長は危険視する。信田氏も「懸念はある。」と考える。政治的に正しくないから言わない、そういった風潮はアメリカにもある。それを無視してトランプ氏は大統領選の中で発言を続けた。しかし、「このポリティカルコレクトネスに対する挑戦がこれからも続いていくと大変なことになるのでは。」と話した。実際に、安倍編集長も井上氏も、アメリカ人は本音と建て前が驚くほど違う、と口をそろえる。トランプ氏の当選によって、「アメリカは平等と言ってきた中で、本音の白人第一主義が明らかになった。」と井上氏は落胆していた。

最後に、トランプ氏勝利の結果をふりかえり松田氏は、政治経験のないトランプ氏という人間の予測不可能性に恐怖を感じる一方、アメリカ国民は変化を望んだ、と述べた。CNNの世論調査で、9月以前に投票先を決めていた、という人が多数だったことに加え、アメリカ人は変革を求めていた、ということがわかったという。

先日、オバマ氏がトランプ氏と会談。現大統領と新大統領が選挙直後に会談を開くということは異例だ。17日に安倍首相もアメリカに行く予定が立っている。今後、まず政府がどう編成されていくのか、議会と大統領の関係性はどうなっていくのだろうか、そしてTPPや日米同盟。トランプ大統領誕生によって日本はどのような影響を受けるのか。ヒラリー氏もが敗戦の弁で語ったように、民主主義は4年に1度の選挙の時だけではなく、常に参加を求める。我々日本人も、別の国、で終わらせることができないアメリカの情勢を、注視していく必要があるだろう。

(この記事は、ニコ生 Japan In-depthチャンネル 2016119日放送の内容を要約したものです)

トップ写真©Japan In-depth編集部 安倍編集長と應義塾大学法学研究科後期博士課程松田拓也氏


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