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.政治  投稿日:2024/7/8

「都知事選、終わってみれば」その2 蓮舫氏屈辱の3位 4つの敗因


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・東京都知事選、蓮舫氏、まさかの3位に沈む。

・立憲民主党と共産党が支援したことが裏目に出た。

・蓮舫氏の掲げた政策が国政レベルのものが多く、小池氏の取り組みが遅れている問題を提起できなかった。

 

開票速報が始まり、2位石丸伸二氏、3位蓮舫氏の数字が目に飛び込んできた。その順位はひっくり返ることはなく、結果、石丸氏の1,658,363票に対し、蓮舫氏は1,283,262票に沈んだ。375,000票少なかった。

立憲民主党と共産党、社民党が支援したにもかかわらず、だ。目標としていた200万票には遠く及ばなかった。会見場に現れた蓮舫氏は、「私の力不足、そこに尽きる」と話すのが精いっぱいだった。笑顔で員らビューに答えてはいたが、失望の色は隠せなかった。

なぜ、無名の候補者にすら負けたのか。本人は自分の力不足を嘆いたが、最大の敗因は立憲民主党の選挙戦略そのものにある。

 敗因その1~立憲民主党の共産党との連携

立憲民主党は衆院選で自民と公明の組織力に対抗するため、共産党の選挙区で候補者調整をおこなっている。いわば「共闘」しているわけだ。だが、立憲民主党の幹部は、共産党と「政策協定」を結んでいるわけではないという。さらに、「これは戦術的な問題で『野合』ではない」とも。

しかし、立憲民主党が共産党の票を当てにしているのは明明白白だ。そんな説明を聞いてもだれも納得などしない。かねて日本維新の会に「立憲共産党」と揶揄されており、このイメージはかなり浸透している。この路線の堅持に反対する党員が出てこないことに驚く。

一方の共産党にとって、立憲民主党との共闘は、メリットしかないから、一度立憲民主党に抱きついたら離れるわけがない。応援した立憲民主党の候補者が当選すれば恩を売ることができる。かくして、今回の都知事選でも蓮舫氏を共産党は全力で応援した。

事務所のポストに入っていた蓮舫氏の選挙チラシをみてびっくりした人も多いだろう。表に大きく蓮舫氏の写真。それは、いい。しかし、一番下に、田村智子委員長が笑顔で「日本共産党も蓮舫さんを全力で応援しています!」コメントしている。ご丁寧に、そのコメントの左上に「いま、こころをひとつに」とある。まるで共産党の候補のようだ。これでは無党派層の心はつかめない。小池都政に批判的な保守層もいるだろうが、彼らはもっと離れていくだろう。結果、小池批判票は石丸氏に流れた。

立憲民主党が共産党とともに蓮舫氏を支援した時点で、敗戦は決まっていた。しかし、それが立憲民主の幹部にはわからないようだ。

大串博志選対委員長は7日、「無党派層に対する訴求が弱かったというのは結果として出ている。これがどういうふうな経過、要因から来ているのかしっかりと分析しなければならない」と記者団に答えたが、なぜ無党派層が離れたのか本当にわからないのなら、事態は深刻だ。

■ 敗因その2~中途半端な政策

もう一つは、蓮舫氏の掲げた政策そのものにある。

掲げた「7つの約束」のうち、「現役世代の手取りを増やす」をトップに持ってきた。実際、街頭演説ではこれを連呼していた。具盾居的には:

・新しい条例で、都と契約する事業者に、働く人の待遇改善を要請します。

・まずは非正規の都職員を専門職から正規化するなど処遇を改善します。

・新しい職種に転職しやすくするリスキリング(職能再開発)を支援します。

としている。

これで現役世代の手取りが本当に増えるのだろうか?誰もがそう、疑問に思うに違いない。こうした国政の話なのか、都がやるべきことなのか、判然としない話は有権者に分かりにくいし、響かない。「そんなことできるの?」、で終わってしまうので、筋がよくない。

マクロ的にざっくりいえば、景気が良くなれば賃金が上がるわけで、そう信じて、アベノミクスは異次元の金融緩和を続けて来た。そのせいで株価は上がったが、賃金は増えなかった。企業がストックしたからだ。ここにきてようやく賃金は上がってきた。が、まだ不十分だ。いまようやくここにたどり着いたばかりなのだ。

ただ行き過ぎた円安のせいでコストプッシュインフレが起き、一部の輸入食材などが高くなっていることや、ガソリンや電気ガスなどのエネルギー費が高止まりしているので生活が楽になったという実感が中間所得層にはない。日本経済は今難しいかじ取りを迫られているのだ。都知事の首を挿げ替えたからといって、すぐに現役世代の手取りが増えるわけがないということくらい、普通のビジネスパーソンだったら理解している。だから、蓮舫氏の政策は響かないのだ。

外苑前の問題はその1で書いた。これも普通に新聞やテレビやYoutubeを見ている人なら、都民投票やったところで、民間事業を簡単にひっくりかえせるものではないことはわかってる。もし蓮舫氏がそれをわからないで主張しているのなら大問題だ。

蓮舫氏は、小池氏のやらないことをぶち上げなければいけなかったのだ。

例えば遅々として進んでいない防災対策。つい先日の都心のゲリラ豪雨ではないが、あの程度の短時間の雨で危うく港区ど真ん中の河川が氾濫するところだった。地下鉄、地下道の浸水対策は進んでいるのか、都心は内水氾濫に耐えうるのか?スーパー堤防の整備はいまどうなっている?(これはこれでブーメランが返ってきそうだが)、電柱地中化と共同溝整備はどうなった?環七周辺の木蜜地域対策は?帰宅困難者対策は?豊洲、有明地区に乱立するタワマンの地震対策は?

それ以外にも身近なテーマで都になんとかならんのか、という問題は山ほどとある。

東京一極集中にどう歯止めをかける?タワマンの投資過熱と外国人が投資用に購入することへの対策は?維持費が膨大なオリンピック施設の有効利用策は?莫大な投資をしている水素インフラ、本当に進めるのか?自転車専用レーンの整備は?違法自転車、電動キックボード、モペッドなどの取り締まりは?インバウンドのカート走行の規制は、トー横キッズや新大久保の立ちんぼ問題など、犯罪の温床となりうる治安の改善をどうするか、などなど、都民の実感にあった問題提起が必要だった。

だが蓮舫氏の口からは国政レベルの抽象的な話が多かった。無党派層の共感は得にくかったはずだ。

■ 敗因その3~街頭での野次を放置

その1にも書いたが、小池さんを野次っても効果はなかった。やっている人たちは自己満だったかも知れないが、多くの有権者は、東京15区衆院補選でつばさの党がやった選挙妨害を連想しただろう。小池氏の演説をやじり倒しても、演説を聞きに来た有権者の反感を買うばかりで、なんのメリットもない。それに気づかず放置したのは蓮舫陣営の失策だろう。

■ 敗因その4~石丸伸二氏に無対策

無党派票をかっさらっていく勢いの石丸氏に対し、蓮舫陣営はなんの有効な手立ても打たなかった。石丸氏が出馬するとわかった時点で対策を講じるべきだった。しかし、ほとんど放置していたおかげで、石丸氏は労せずして反小池票、反蓮舫票の受け皿になった。石丸氏に敗北したことは、蓮舫氏自身の政治生命もさることながら、立憲民主党に対し、無党派層が立憲民主党を自民の受け皿とは見ていない、という深刻な現実を突きつけた。

立憲民主党は秋の代表選に向け、体制を立て直さないと、次の衆院選は相当厳しいことになるのではないか?自民党はいまごろ胸をなでおろしているかもしれない。

次は石丸氏について。

(その3につづく。その1

トップ写真:日本記者クラブ主催の東京都知事選立候補予定者共同記者会見に臨んだ蓮舫氏(2024年6月19日 東京都・千代田区)出典:Tomohiro Ohsumi/Getty Images




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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