無料会員募集中
.社会  投稿日:2024/7/23

東急不動産が目標を大幅前倒し 国内事業会社RE100達成 生物多様性も


中川真知子(ライター/インタビュアー)

【まとめ】

東急不動産、事業活動の消費エネルギーを100%再生可能エネルギーにする国際イニシアチブ「RE100」を達成。

・広域渋谷圏のオフィスビル17施設を2022年にはすべて再エネに切り替えた。

・同社は生物多様性を伸ばしていきたいとも考えている。



東急不動産が、事業活動で使う消費エネルギーを100%再生可能エネルギーにする国際イニシアチブである「RE100」を達成した。国内の事業会社としては初となる。

RE100を達成した企業は世界でも40社程度。達成したのは金融系が多い中、東急不動産は2019年にRE100に加盟し2050年を達成目標に設定したものの、予定を大幅に前倒しして2024年に達成の認定を受けている。

なぜ、エネルギーを多く消費するデベロッパーが短期間で再エネ化を達成できたのだろうか。

■ RE100への参加要件はと達成要件とは

話を進める前に、まずはRE100についてざっくりと解説したい。RE100は誰もが参加できるわけではない。

RE100の参加要件は以下の通り。

  • 消費電力量が年間100GWh以上(日本は50GWh以上)
  • 事業の100%再エネ化を期限を決めて目指し、公表すること(遅くとも2050年までに100%再エネ化する)
  • グループ会社であればグループ全体でRE100に参加すること

達成要件は次の通りだ。

  • RE100の技術基準を満たし、エビデンスを提出
  • 1年間の再エネ利用実績データなどの事務局への提出及び審査
  • 対外発信文言の審査

■ 「RE100」達成への歩みとスピードの理由

オフィスビルや商業施設をはじめ204もの施設を保有する東急不動産にとって100%再エネ化は難しく感じられる。だが、「WE ARE GREEN」をテーマに掲げて環境課題に取り組んでいる同社は、太陽光や風力といった再エネ発電事業を展開していることもあり、2022年から自社発電の再生可能エネルギーに順次切り替えることで100%再エネ化を実現した。

写真)「WE ARE GREEN」がプリントされた紙パックの緑茶

ⒸJapan In-depth編集部

 

注目すべきは、2050年の目標達成期限を2025年に大幅に前倒ししたところだろう。これは、以前から再生可能エネルギーにこだわっていたことに加え、実際にロードマップを作ってみたら実現可能だと感じたことがきっかけだったそうだ。

写真)東急不動産株式会社 サステナビリティ推進部部長の松本恵氏

ⒸJapan In-depth編集部

まずは広域渋谷圏のオフィスビル17施設を、2022年にはすべて再エネに切り替えたという。

「目標達成期限は2025年でしたが実は2022年の段階では全ての切り替えを終えていたのです」と、東急不動産株式会社 サステナビリティ推進部部長の松本恵氏は話した。

だが、切り替えただけではRE100達成とは認可されない。達成要件には、1年間の再エネ利用実績データの提出及び審査があるため、その過程を経て達成が認められている。

参加を決めたときから達成までの速さは、岡田正志前社長によるトップダウンと現場の実務体制の連動が鍵になっているそうだ。また、今後は環境に配慮した施設を選ぶテナントやイベントコーディネーターが増えることを見越した「選ばれる」基準へのシフトでもある。

■ デベロッパーとして生物多様性の課題に挑む

RE100を達成した東急不動産は、生物多様性を伸ばしていきたいとも考えている。同社が生物多様性に取り組むようになったのは2010年。COP10 生物多様性交流フェア参加が契機となったそうだ。

2012年に完成した「東急プラザ 表参道原宿」通称「オモカド」は、生物多様性保全に力を入れている。具体的には、同商業施設の「おもはらの森」をアオスジアゲハやシジュウカラといった安らぎの場にする取り組みを行っている。

写真)「東急プラザ 表参道原宿」おもはらの森

東急不動産ホールディングス

シジュウカラは市街地にも生息するため、都市部に営巣させることができれば豊かな里山のシンボルになるだろう、と考えて巣箱を設置。2024年4月には、4つの巣箱で営巣が確認された。

もちろん、このような取り組みはテナントの理解も欠かせない。前出の松本氏は「シジュウカラが好む木は実がなるので季節になると落ちて管理費用がかさみますが、生物多様性を守るために理解していただく必要があります。虫の発生も避けられませんが理解を得ながら徐々に進めています」と話す。

なお、生物多様性のバランスは、人間の手が介入することで崩れることもある。人間にとって不都合な生物が増える場合もあるだろう。その点に関して疑問を呈すると「全ての自然を守ることはできません。都市と自然との間をどの程度関与しながら守っていくのかが我々デベロッパーに求められているところではないかと考えています。営利性を担保しながら、日々課題に取り組んでいます」と松本氏は答えた。

図)広域渋谷圏におけるエコロジカル・ネットワーク 

提供)東急不動産

同社は、広域渋谷圏に建つ商業施設やオフィスビルを、明治神宮や代々木公園といった濃い緑とつなぎ、生物多様性やネイチャーボジティブを実現化する取り組みを進めている。

今後の取り組みに期待を寄せたい。




この記事を書いた人
中川真知子ライター・インタビュアー

1981年生まれ。神奈川県出身。アメリカ留学中に映画学を学んだのち、アメリカ/日本/オーストラリアの映画制作スタジオにてプロデューサーアシスタントやプロダクションコーディネーターを経験。2007年より翻訳家/ライターとしてオーストラリア、アメリカ、マレーシアを拠点に活動し、2018年に帰国。映画を通して社会の流れを読み取るコラムを得意とする。

中川真知子

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."