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.政治  投稿日:2024/7/25

「名言」が心に刺さる~石丸伸二に若者が熱狂した理由1


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

都知事選。石丸伸二さんが2位の得票数を得た。

その熱量を生んだのは石丸「名言」と「振る舞い」。

典型的なSNSマーケティング手法がうまくはまった。

 

今回の東京都都知事選。石丸伸二さんが大人気でなんと2位の得票数を得た。ある意味、熱狂を生んだ現象のようだった。この理由としては多くのことが語られてきた。筆者も政策面や人間性から分析をしてきた(記事参考)。特に、筆者は「一極集中から多極分散へ。これしか東京と地方が発展する道はないと考えています」という彼の政策面での発言に重きを置いてみてはいる。ただし、選挙戦では政策面をほとんど言及しなく、かつ、浅い内容でもあった。だから、今回の躍進はたんなる「政策」「考え方」が主な理由でもなさそうだ。橋下徹さんは「熱量」が理由だという。まさにそう。今回は、その熱量を生んだものは石丸「名言」と「振る舞い」この2つだと思っている。今回は名言について解説したい。

■ 石丸さんの数々の「名言」が勝因

ネットで見ればたくさん動画が見れる。TikTok、instgram、youtube、youtubeショートなど、その作品は多様だ。たくさんの「切り抜き」が特徴的である。こうした動画は再生数が回るから、皆が動画を作って拡散させていく。そういう典型的なSNSマーケティング手法がうまくはまったようだ。

その動画コンテンツを視聴した多くの人の心には何が響いたのか?

それは数々の名言だ。

「恥を知れ、恥を」

「心を燃やし続けてください」

「ちょっとでも良い未来を必ず渡したいと思います」

「我々がこの先の未来について責任を負う」

「真に若い世代の参加を願うなら、口は出さず金を出してください」

「上から意見をいうのではなく下から意見をきいてください」

「誰かを動かそうとせず、自分から動いてください」

石丸さんが、本気で語る、熱く伝える、情熱のこもった言葉の数々が人の心に刺さったわけだ。

■ 刺さる「名言」の意味

とてもピュアだが、本気度、真剣さ、勇気、情熱が明確に出ていて、伝わってくる。

こうした発言は、既存の政治家から聞かれることはほとんどない。そして、こうした石丸さんのメッセージを聞いていて思ったのは、ある意味、若い世代の思いを代弁しているなあということだ。日本型社会に対してノーを突き付けていることがわかる。

・社会にとって本当に役立つのか疑問なおもしろくもない仕事をさせられる

・権力者は未来に向けた投資や改革を行わない

・ベテランは自分のことを考えていて「勝ち逃げ」を狙っている

・空気を読みまくるので疲弊する

・マウンティングがはびこる権威主義社会で自由よりも体制順応が求められる、いきづらい社会

・先進国だそうだが、給与は低く、権力を握る層は過去の反省をしない

・権力を握る層が高齢で若い人の可能性や挑戦をサポートしてあげない

こうした「閉塞状況」に置かれた人にとって、石丸さんの言葉は特に胸に刺さる。

大人はきれいごとだ!とか、できるわけがないー大人になれ!とか言うかもしれない。しかし、石丸さんの日本社会の閉塞感・日本のおわこん社会へ切り込む姿勢、その言葉とその背景にある思考、思想。そこに若者は惹かれたのだろう。なんといっても、閉塞した社会、暗い未来に対して闘う姿勢、それを言葉にして伝えれば、それなりの共感を生む。

しかし、共感は生んだが、よく若者には考えてもらいたいとも思う。この「名言」どおりのことを実行できるのか、単なる口だけではないか、と考えてみると、なかなか難しいことがわかる。

政治は利害関係者の妥協の作業。一方的に価値観を振りかざしても、リスペクトを持たない・批判された相手が話を聞くだろうか。きれいごとを言うのはいくらでもできるが、いろいろな人を巻き込み、信頼関係を築き、説得し、実行できるのだろうか。

こうした疑問が出てくる。そこは漫画の世界ではないからだ。

 確かに石丸氏には大人げない面も・・

石丸さんのメディアでの対応は賛否が続く。

◇大手メディアに対しては挑戦的に対峙

◇人と向き合うときは、対決姿勢

◇下に見た人には喧嘩腰に対応

◇厳しく来られたら厳しく向き合う

◇融通がきかない

◇定義や前提にこだわり会話が成り立たない

◇漫画的言動、バズることを最優先する

◇基本、相手を遣り込めること、論破することが大事だと思っている

といった点が指摘され、開票後のインタビューではその一端が垣間見られた。ネットでの名言を知っただけでイメージを持っていた人の中には、びっくりした人もいるかもしれない(筆者記事参考)。

しかし、石丸さんの「名言」が生んだ熱狂をよく考えてみよう。日本のビジネス社会では、まだまだ意味わからないルール・無駄な会議・必要のない打ち合わせ・意味不明な作業・「儀式」のようなものブルシットジョブであふれまくっていて、若い人にとって「しょうもない」現場に向き合ってる。いや、苦しんでいる。

こんなものはとっととやめた方がいいのだが、日本の権威主義的組織内では難しい。閉塞した社会を変えるにはリスクがあるし、エネルギーもいる。タイパがよくない。「空気を読む」のが得意な若者はそうしたことをしたいけど、できない。

政治不信、社会不信・・・そうした「空白」の隙間に、希望・願望を体現してくれる(かもしれない)、石丸さんがさっそうと登場した。若者が石丸さんを「推す」構造が出来上がったということだろうか。

トップ写真:都内で貼られた都知事選候補者のポスター(2024年7月7日)出典:Photo by Tomohiro Ohsumi/Getty Images




この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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