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.国際  投稿日:2024/7/19

民心から遠ざかる金正恩体制


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・元駐キューバ北朝鮮政治担当參事官李イルギュ氏が韓国メディアのインタビューに答えた。

・今年に入り、金正恩総書記は本格的な神格化・絶対化作業に突入している。

・この路線は住民を金正恩から遠ざけている。

 

 北朝鮮の金正恩総書記は、体制の危機脱出のため、「統一路線放棄」「第一の敵国は韓国」「韓国民は同一民族ではない」などの先代否定政策を打ち出し、北朝鮮住民に動揺を与えている。第8期10回党中央委員会総会拡大会議(6月28日から7月1日)では、それまでの「金日成・金正日バッジ着用を「金正恩バッジの着用」に変更し人々を驚かせた。  

 今年に入って、金正恩偶像化は一線を越えた。本格的な神格化・絶対化作業に突入している。しかし、この路線は、金正恩を北朝鮮住民からますます遠ざけている。そうした北朝鮮の状況が、昨年11月に韓国へ亡命した元駐キューバ北朝鮮政治担当參事官李イルギュ氏(52)の韓国朝鮮日報とのインタビュー(7月16,17,18日)で、明確に語られた。 

 以下でそのインタビュー内容を抜粋して紹介する(翻訳は筆者)。

 *李イルギュ氏は、昨年11月初め、妻と子供を連れて亡命し韓国に定着した。李氏は北朝鮮外務省の代表的「キューバ通」で、2019年4月からキューバ駐在政治担当参事に任命され、昨年まで韓国とキューバの修交を阻止する任務を担っていた。 2016年に韓国に亡命したテ・ヨンホ駐英国北朝鮮公使以後、韓国に来た北朝鮮外交官の中で最も職位が高い。

金正恩に会ったか

「茶も一緒に飲んだ。金正恩も向かい合って座れば、ただ平凡な人間だ。近くで見ると、「血圧がとても高い」ことがはっきりする。常に顔が酒を飲んだかのように、真っ赤だ。画面に出るよりも赤い。インディアンみたいだ」

-2022年11月娘キム・ジュエを公開したが

「金正恩がジュエを連れ歩いたのは(メディア公開の)ずいぶん前のことだ。(私は)平壌で第2自然科学院のアパートに住んでいた。住民の80%以上が核およびミサイル開発に従事していた人々だ。彼らによると、抱きしめなければならない子供の時から、金正恩の気分が良ければ「私が姫を見せてあげる」とジュエを連れ出したという。ジュエを初めて公開した時は不思議だったが閲兵式のような公式国家行事まで連れて行ったので拒否感が徐々に大きくなった。私は、あのような人々の足元で様々な卑しめを受けて生きてきたが、これから私の子供がまたその幼い者の前でヘコヘコしながら生きなければならないのかと思うと気が詰まった。少なくない北朝鮮人がこのような考えをしているはずだ」

後継者として見るか

「個人的には難しいと思う。絶対権威、絶対崇拝を受けるには神秘性がなければならない。今のように露出させるだけ露出させて、なんの神秘さがあり、崇拝感があるのか​​。

北から女性指導者が出ることができるか。

「2012年、韓国大統領選挙で朴槿恵大統領が当選したでしょう。金正恩がそれを見て大変な衝撃を受けた。その時、金正恩が金平海党幹部部長兼担当書記に、私たちも女性を大々的に使ってこそ、国際社会で正常な国家になれるとの趣旨の話をした」。

核ミサイル実験をどう見るか

「初期には核・ミサイル実験成功の発表が出れば誇りや自負心のようなものを感じた。しかし核・ミサイルに膨大な資金が投下されていると知った瞬間から人々は拒否感を感じ始めた。金正恩政権は、米国の侵略に備えているという虚の名分で核ミサイル開発に数億万の金を使い果たした。国の経済を荒廃させ、2500万国民を現代版奴隷に転落させた。高齢者は「日帝の時もこんなに大変ではなかった」と話した。こんなに大変で生きていけない制度を私たちが守って何をするのか。政権も民心がすでに自分たちから離れていると、あまりにもよく知っているので恐怖政治の度数を高めるのだ

金与正名で談話を出しているが

「金与正は名前を貸しているだけだろう。ある面で金与正もとても寂しい(人間だ)。自分の名前を、全世界が非難し指弾する汚物風船ごときを合理化するのに使われるのだから。金与正の地位とパワーがどうであろうとNO.2、NO.3とか言うのは全て嘘だ。北朝鮮社会は唯一統治だ。 「最高尊厳」以外はすべて奴隷に過ぎない。金与正の名前で出てくる談話でも党に課題を与えて企画する。方針を受ける前には金与正もその文書を見ることができない」。                          

多くの脱北民が脱北動機に「子ども」を挙げるが

「外交官の子どもたちは、海外で生活総括(相互・自我批判)や学習(思想教育)に参加している。しかし、ほとんどの時間を地元の子供たちのように生活する。発言や装いに気をつけたり、他人の気づきを見なくてもいいし(北朝鮮にいる時のように)行事や無報酬労働に動員されるストレスがないので、子供たちがすくすくと育つ。そんな姿を見ていると、『子供たちを再び北朝鮮に住まわせるのが親としてやるべきことか』という悩みに突き当らざるを得ない」。

子供たちがすくすく育つとはどういう意味か

「身体的にそうだということだ」。海外に子どもたちを連れて行ってから平壌に戻って学校に入学させれば歴然と差が出るものがある。北朝鮮だけに住んでいた同級生の子供たちより身長が5~10cmほど大きく、肌の艶も違う。北朝鮮では食べることがほとんどない肉・牛乳のような栄養価の高い食べ物を外国で多く摂取するためだけではない。自由を味わう人生を生きたからだと思う」。

キューバは北朝鮮とどう違うのか

「キューバは北朝鮮のような独裁国家ではない。国連憲章と国際法などを尊重する国際関係の標本のような国といっても過言ではない。キューバで考えを別にしたり、政府を非難したからといって処罰された時期はずっと前に過ぎ去った。キューバが数年もジュネーブ国連人権理事会の加盟国に選出されるのも偶然ではない」。

韓国・キューバ修交をどう見たか

「キューバは、豊富な地下資源と発達した観光環境などを保有する潜在力と実用性が非常に大きい国だ。韓国・キューバ修交は大きな政治的・経済的意義があると考える。ただし、韓国とキューバの修交意義について「北朝鮮の孤立、北朝鮮を相手にした体制競争の勝利」などと表現した記事を見たが、この指摘は全く合わない。韓国と北朝鮮の間に「競争」という言葉がまったく成立しないからだ」(注:韓国にとって北朝鮮はすでに競争相手ではないという意味)。

韓国・キューバの修交で北朝鮮内部の衝撃が大きかったようだが

「韓・中、韓・ソ(ロシア)の修交の時ほどではないが、衝撃は大きかった。金正恩は、キューバが全世界でほとんど唯一、韓国と修交していない国という象徴性のため特に重視した。昨年、当時の朴振(パク・ジン)外交部長官(韓国)がグアテマラでキューバ外交部次官に会って面談した内容が韓国メディアに報道されたが、大使館でこれを見逃したことがある。すぐさま平壌から「韓国がキューバと修交議論をしたが、代表部は何も知らないというのが話になるのか」と追及する電文が来るほどだった。

韓国・キューバ修交を全く予想できなかったか

「2022年に私がすでに『キューバが経済的に困難なので、韓国と突然修交したベトナムの場合もあり、随時状況チェックをしなければならない』と党に報告した。外務省幹部たちは、修交が時間問題だと思って心の準備をしていたが、党幹部たちはそうではなかった。

キューバ駐在北朝鮮大使も召喚されたが

「今年2月、北朝鮮がマ・チョルスの駐キューバ大使を召喚したのは、現地大使にすべての責任を負わせようとする国際部と外務省幹部らの術策だと思う。 2023年、両親がなく祖父母と住んでいた馬大使の孫がキューバからアメリカに行こうとして失敗して北朝鮮に連れて行かれたが、その責任と私の脱北に対する責任を問うための側面もあるようだ。

北朝鮮と海外に残っている仲間たちにしたい話があるとしたら

「大韓民国に来てみると(脱北という)巨大な冒険をするのに十分な価値があることを切実に感じる。仲間たちには申し訳ない気持ちが大きく、いつも懐かしい。北朝鮮には未来がない。その呪いのような暗黒の土地を捨てて、明るい世界に出てくる勇気を出してほしい」。

トップ写真:ロシアと北朝鮮の対話に向かう際の金正恩総書記(平壌、2024年6月19日)

出典:Photo by Contributor/Getty Images




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