都知事選、蓮舫氏惨敗 立憲民主党の立て直し急務
安積明子(政治ジャーナリスト)
「安積明子の永田町通信」
【まとめ】
・東京都知事選は、予想通り、小池百合子氏が3選を果たした。
・自民党が「政治とカネ」問題で身動きが取れない現在、野党にとってチャンスでもあった。
・惨敗した蓮舫氏、どこで挽回を図るのか。その前に立憲民主党の立て直しが急務とはいえまいか。
7月7日に投開票された東京都知事選は、大方の予想通りに小池百合子氏が3選を果たした。投票率は60.62%と、前回より5.62ポイントも上昇した。理由は、広島県安芸高田市長時代に議会と交わしたやりとりがYouTubeでバズった石丸伸二氏が、165万8363票も獲得したからかもしれない。加えて小池知事にしつこいアンチが付きまとっていたことに、一定の“同情票”が流れたことも影響しているだろう。
確かに7月5日に新宿駅前で行われた小池知事の演説会では、「ウソつき!」「辞めろ!」といった怒号が飛び交い、酷い妨害活動が繰り広げられた。これは6月22日の北千住駅前で行われた演説会で主に学歴詐称疑惑や外苑前開発問題について行われた抗議活動とは、音量についても内容についてもレベルが違った。罵声におされて小池知事が、演説を中断する様子も見られた。
学歴詐称疑惑の再燃で苦境に立ったかと思われた小池知事だが、その影響が抑えられたのは、野党が擁立した候補が蓮舫氏だったことも一因している。蓮舫氏は民進党の代表に就任した2016年、二重国籍問題が発覚してその対応に追われた。
現在では蓮舫氏の国籍問題は解消されているが、この時の説明不足とその後間もなく民進党の代表を投げ出したという事実は、蓮舫氏の政治家としての資質を大きく傷つけた。最盛期の2010年の参議院選では、東京選挙区で171万734票も獲得した蓮舫氏だったが、2022年の参院選では67万339票にまで減少した。もはや昔の面影はない。
だからこそ、東京都知事選に挑戦する意欲が出たのだろう。仮に当選しなくても、衆院東京26区や2025年の参院選が控えている。さらに都知事選で無所属で戦えば、都内で70万票近くを有する日本共産党とはWINWIN関係を作ることができる。その“貸し”を次期衆議院選で返してもらうなら、損することは全くない。
しかし計算違いが発生し、蓮舫氏は128万3262票にとどまった。理由は1日に約10回も演説をこなす石丸氏に比べ、蓮舫氏の活動量は圧倒的に少なかったからだ。しかも挑戦者であるにもかかわらず、公約発表を小池知事の後に行うなど、現職と“対等に”戦おうとした。無党派票を争う相手は石丸氏であるにもかかわらず、常に小池知事を意識した。ならば東京都の政策に精通する都庁の官僚が小池知事のために策定した公約に対して、もっと包括的で且つ大胆に攻め込まなければならなかったが、訴えた内容は「野党の枠」からほとんどはみ出ていなかった。
たとえば蓮舫氏は「行革は得意です」と胸を張ったが、首長はむしろさまざまなところに予算を加えていくことが主な仕事で、また少子化対策など喫緊に取り組むべき重要課題は山積している。要するに時代の要請が読めていないのだ。
一方で自民党が「政治とカネ」問題で身動きが取れない現在は、野党にとってチャンスでもある。民主党から自民党へ政権が交代した2012年の都知事選も、投票率は62.2%と高かった。その民意を上手く拾えば、もっと得票数を伸ばせたはずなのに、蓮舫氏はそれに失敗した。
代わりに躍進したのは石丸氏。本来なら「自民党でもない、旧民主党系でもない」という60万票程度の得票で終わったはずが、浮動票の30%を獲得したため、100万票も上乗せした。本来ならその多くは蓮舫氏に行くはずの票でもあった。しかも蓮舫氏から石丸氏へ票が動いたのは、選挙戦最後の数日間と考えられる。
というのもこの頃に行われた調査で、「石丸氏が蓮舫氏を抜いた」と判断されているからだ。また小池知事への演説妨害が激化した時期とも重なっている。
これには、政党支持率も連動している。NHKが7月8日に公表した世論調査では、立憲民主党の政党支持率は5.2%で、前月比4.3ポイントも下落した。日本共産党やれいわ新選組も政党支持率を低下させているが、それぞれ0.4ポイント、0.6ポイント減で、下げ幅は立憲民主党ほど大きくはない。
党籍を離脱したとはいえ、蓮舫氏は立憲民主党の顔のひとつであることは間違いなく、蓮舫氏の失敗は立憲民主党の失敗とも見なされる。惨敗した蓮舫氏は、どこで挽回を図るのか。その前に立憲民主党の立て直しが急務とはいえまいか。
トップ写真:首相官邸での記者会見に臨む蓮舫。2010年6月8日。
出典:Photo by Junko Kimura/Getty Images
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この記事を書いた人
安積明子政治ジャーナリスト
兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。