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.国際  投稿日:2024/6/28

「トランプ陣営の世界戦略がさらに明るみに」その5(最終回)日本との同盟を超重視


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・AFPIの政策報告書、台湾有事では「戦略的曖昧性」を保つ政策を強調。

・中国軍の攻撃が起きたら、米軍を投入することがトランプ陣営の台湾政策。

・日本との同盟はアメリカ第一外交にとっても、対中抑止策でも、最も重要な基盤となる。

 

この報告は台湾情勢についても重要な政策を強調していた。中国がもし台湾に軍事攻撃をかけた場合、アメリカは断固として台湾を支援して、防衛することがトランプ陣営の本音だというのだ。ただし当面は中国への抑止のために台湾関係法に従い、「戦略的曖昧性」を保つ。つまり、台湾有事でも米軍が介入するか否かは曖昧のままにして、中国を混乱させ、抑止する。しかしいざ中国軍の攻撃が起きれば、必ず米軍を投入して、台湾の防衛に全力を尽くすことがトランプ陣営の本当の台湾政策だというのである。この点は米軍が確実に介入すると何度も言明したバイデン大統領とは異なるわけだ。ただしバイデン政権はなお曖昧性を保つ政策を続けており、大統領の矛盾する発言のたびに「訂正」を繰り返してきた。

同報告書はバイデン大統領への批判も辛辣である。台湾有事での同大統領の発言の無責任さを糾弾するだけでなく、他の分野での対応にも厳しい非難を浴びせていた。

「バイデン大統領はアメリカにとっての最大の脅威を中国だとは述べず、気候変動だと宣言する。台湾有事については自分の政権の明確な政策に反する矛盾した発言をする。その一方、中国の抑止のための軍事強化に必要な予算措置を取らない。中国はバイデン氏のこの種の揺れを弱点とみて、同氏の大統領在任が続けば台湾への軍事攻撃にますます傾くだろう。

バイデン大統領はそれでなくてもアフガニスタンからの無惨な撤退やイランの核武装への宥和的な対応など、アメリカの年来の抑止力の衰退をみせつける態度を繰り返しとってきた。ロシアやハマスがアメリカとの絆を保つ相手への軍事攻撃に出たのもバイデン政権下での米軍の軍事抑止力の低下をみたうえでの動きだったといえる。その種の宥和姿勢は最大の敵である中国に冒険主義的な膨張活動を取らせることにもなる」

以上のようにトランプ陣営の安全保障政策はバイデン政権の姿勢を宥和とか軟弱だとして、その姿勢こそがかえって反米陣営からの攻撃を招くのだ、と警告するのだった。

【同盟の重視、そして日本の最重視】

トランプ陣営のこの政策報告書はとくに日本との同盟の重視を強調していた。日米同盟の重視がそもそもトランプ氏自身の思考でもあるというのだ。

同盟の重視についてはこの報告書全体のなかでは「アメリカ第一・NATOと同盟全体」と題する第8章で詳述されていた。この章の執筆者はトランプ政権の国務省で報道官を務めたモーガン・オルタグス氏である。同氏は女性ながら海軍士官の出身で、その後は政府の情報機関に勤務し、安全保障の研究にも特化した。第8章は副題に「なぜアメリカ第一は孤立主義ではないのか」ともうたうように、同盟の重要性、必要性を説明していた。

しかしアメリカにとっての日本との同盟の重要性は前述の中国問題を主題とする第6章でも強調されていた。

「アメリカが中国などの敵対勢力と対決し、抑止するための最強力となる手段は同盟諸国との連帯である。アジア太平洋での中国との競合では日本、フィリピン、韓国、オーストラリアなどとの安保上の協力が不可欠となる。

アメリカのアジアでの同盟関係はNATOとは異なり、アメリカを車輪の軸とする複数の輻(や)のようである。そのなかでも日本との同盟はアメリカ第一外交にとっても、また対中抑止策でも、最も重要な基盤となる。

日本は近年、アメリカのアジアでの同盟関係での礎石となり、中国への警戒や抑止でもアメリカとの歩調をより緊密にしてきた。日本政府は最近、防衛費の倍増や中国に届く中距離ミサイルの初の購入を決めた。台湾の平和と安全に対しても積極的に発言するようになり、アメリカとの連帯を強めている」

このように日本との同盟はまずアメリカが中国の軍事膨張を抑止するうえでも超重要だというのだ。

第8章ではまずアメリカにとっては日米同盟に限らず、NATOでの集団防衛による同盟も不可欠だと述べていた。トランプ陣営の基本政策としてNATOは必要だというのだ。ただし欧州側の加盟国がこれまでよりも防衛負担を増して、均等性を目指すことをトランプ陣営としては求めるという点を繰り返していた。いずれにせよ、そこにはNATO脱退などという姿勢はツユほどもないのだった。

この第8章は日本についてさらに述べていた。

「トランプ前政権のアジア戦略の礎石となったのは日米同盟の強化と深化だった。日米のパートナーシップはアジア地域の平和と安定のための最重要な基盤となった。トランプ政権は米軍と日本の自衛隊との戦略や兵器の互換性を高めて、中国人民解放軍への抑止力を高めることに成功した」

「トランプ大統領自身が安倍晋三首相に対し個人的にも強い好意を抱き、両首脳が個人レベルでの連帯を強固にしたことは日米関係を強くし、共通の戦略的目標の追求を効果的にした。その絆がインド太平洋全体での中国への抑止の強化となった。トランプ大統領は北朝鮮による日本国民の拉致事件の解決についても日本への協力を明確にした」

次期トランプ政権のグローバルな諸政策のなかでも日本との同盟とパートナーシップの強固な保持はトップの優先事項となるだろう。この点で次期の日本駐在のアメリカ大使にはその優先順位にふさわしい有能な人物が任命されるだろう」

日本はこれほど重視されているのである。繰り返し強調するが、次期トランプ政権が日米同盟を破棄するだろう、などという憶測にはなんの根拠もなく現実の展望はまさにその逆の方向を指し示しているのである。

(終わり。その1その2その3その4

*この記事は総合雑誌「月刊 正論」2024年7月号に掲載された古森義久氏の論文「トランプ陣営の『世界戦略』を知る」の転載です。

トップ写真:台湾の高雄で行われた軍事訓練で、海上を操船する台湾の光華6級ミサイル艇2隻(2024年1月31日)出典:Photo by Annabelle Chih/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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