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.政治  投稿日:2024/7/5

【都知事選、本当の争点】⑧ 石丸さん、政治改革を進める本気で既得権を破壊できるか?


西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)

【まとめ】

・3つの柱で、優先順位を明確にした政策を打ち出している石丸候補。

・「東京一極集中問題の解決」については方向性は悪くないが、提案内容は不十分。

・都議会との対立が予想され、組織マネジメントについての能力は不明。

 

東京都知事候補、石丸伸二さん。SNSを駆使し、政治不信をもつ人々の不満に対して、まっとうな姿勢で回答し、注目を集めてきた。政治がどん詰まりの中、救世主のように大衆の眼には映るのかもしれない。

経歴

1982年8月12日生まれの41歳。安芸高田市、旧吉田町立吉田小・中学校、県立祇園北高等学校を卒業。浪人ののち京都大学経済学部へ進学し、卒業後は三菱東京UFJ銀行に入行。姫路支店に配属された後、為替アナリストとしてニューヨーク駐在し、4年半にわたって勤務した。アメリカ生活で、日本・広島・安芸高田の素晴らしさに気づいたそうだ。その後、河井事件に伴う前市長退職に伴って行われた市長選挙で当選した。居眠りをしていた議員に対して「恥を知れ!」と厳しく批判したことや地元メディアとの対決で目立ったが、「市民が市政を考える機会として財政説明会」を開催するなど市民と対話し、数々の事務事業を見直してきた。

今回の公約は若干、東京都政の分析不足か、政策より理念色が強い。中身を見ていこう。

■ 政治屋の一掃をできるのは彼しかいない?!

石丸さんは3つの柱で、シンプルな、優先順位を明確にした政策を打ち出している

1 政治再建

■都政の見える化・分かる化を進めます!

■ICTを活用して民意を集約します!

■政策を合理化・適正化します!

2 都市開発

■災害リスクへの対応を強化します!

■経済と環境、二つのエコを両立します!

■多摩格差の是正に取り組みます!

3.産業創出

■教育の深化・進化に取り組みます!

■外需を取り込みます!

■46道府県との協調・協働を推進します!

【出典】石丸氏公約

特に「都政の見える化・わかる化」について理解してもらうという視点は、都民とコミュニケーションをしていこう、伝えていこうということだろう。ICTを活用した民意の集約と対話を掲げる。都民が関心を持つことが政治勢力との対決には一番重要であることを戦略的に知っているのだろう

また、「政策を合理化・適正化します!」として「利権政治から脱却し、バラマキ事業を廃止。経済合理性に基づいた政策で全体最適を図ります。」と主張する。

「恥を知れ、政治家」「政治屋の一掃」といった過激な発言はあるものの、特定の立場や利害を守る人たちに対しての明確な挑戦状、既得権益からの反発や反感に対しても全都民のために戦うという宣戦布告である

また、利害関係者だけが関与し、利益を配分、それ以外が興味をなくし、さらり利害関係者は甘い蜜を吸う・・・そういった政治不信の負のサイクル、ジャックされた政治を改革しようとする政治システム改革宣言でもあると筆者は考えている。「ブラックボックス」を掲げた8年前の小池さんの手法よりも本気度がある。

地方自治で本気で改革をすると、強い抵抗を受ける。筆者も経験したが、過去を否定しかねないため施策や事務事業を続けたい職員、改革改善するのが利害調整が面倒くさかったり上司の反発でひよってしまう意識の高い職員、事務事業評価を本音で数字に基づいてやらない幹部層、補助金を廃止されると困る利害関係者と政治家、施設統廃合に反対するなど「地域エゴ」ともいえるようなことを言ってきたり、補助金削減に反発する住民等々。

そのためには石丸さんのような強力な旗を掲げなくてはなしえることはできない。田んぼアート、婚活事業、観光協会、イベントなどの事業を廃止してきた石丸さん。中でも「2034年度には公共施設を37%削減できる見込み。」というところまでいった公共施設改革が秀逸だ。その困難さは物凄いものがある。

そして、市民にはこう言っている。

「未来への投資は、子ども、教育における投資です。限りある財政ではありますが、最大限、教育分野に的を絞ることが、本市にとって最も希望がもてる方策だと考えています。」と。優先順位を明確にして成し遂げた。優先順位の明確さとその住民を味方につけるコミュニケーション戦略で、それなりの事務事業の見直しは可能であるのではないだろうか。

■ 東京一極集中問題解決はこれでいいの?

経済政策は産業の創出、コンテンツ産業で「東京からコンテンツを生み出すことは難しいため、国内外からコンテンツを生み出し、育む環境を整えることで、人材や資金の流入を促進していきます。」とのことだ。

教育については、「教職員の働き方改革が進むよう学校環境を改善し、民間のサービスを導入して学校教育を充実させます」ということらしい。生徒会に100万円を渡しますなども新たに掲げている。

一極集中については、過密をどう解消するかを「多摩格差の是正」「46道府県との協調・協働を推進」との政策に置いている。筆者が長年言ってきた「東京一極集中問題の解決」の方向性としては悪くはないしかし、東京都としてどういう提案をしていくのかとしては不十分である。本来なら、都市再開発の規制強化を明確にいうべきだろう。また、企業本社や政府機関の地方移転も必要だろう。東京への集中はますます進んでしまう中、歯止めをかけるのはそれしかないからだ。

■ 政治改革の寵児になれるか?

筆者が提起した以下の「7つの条件」を石丸さんなら条件を満たし、政策を実現できる能力がある。

【条件1】東京都の利権構造にメスが入る

【条件2】特定の既得権益の方々が利権をむさぼらない

【条件3】政策立案過程がオープンにされている

【条件4】情報公開が十分されていて政策検証ができる

【条件5】客観的な評価に基づくワイズスペンディング(賢い支出)、適切な予算が執行される

【条件6】都民の満足度や納得度が高い

【条件7】環境や子育てなど先進的な政策を推進する

こうしたことができるポテンシャルがある石丸さん。

様々な見直しに挑戦し実績を残した点、「(民主党政権の)事業仕分けは手段の議論に終始していて目的の検討ができていない」と喝破している点から行政評価の本質を理解している本物の政治家といってよい

しかし、都議会との対立が予想されるし、組織マネジメントについてはその能力は不明である。安芸高田市での改革もその弱い政治基盤からするとよくやったようには筆者は評価できるが、訴訟にも明らかになるように旧来の利害関係者を追い詰めすぎる形になっている面も見られる。ショー化して大衆を味方につけてエンタメ化する政治には限界はある。

政治は利害関係者の妥協という本質を見誤ると危うい。しかし、発言を見ていると冷静でスマート。「本物の政治改革」を本気で進めようとする信念もすごい。今後の政界の寵児になる可能性がある石丸さんに期待したい。

<注>

本文は筆者の専門家としての意見であり、公平中立に評価したものです。これら意見は、所属組織には関係ありません。

つづく()

トップ写真:日本クラブで共同記者会見に臨む広島県安芸高田市前市長の石丸伸二候補(2024年6月19日 東京都・千代田区)

出典:Photo by Yuichi Yamazaki – Pool/Getty Images

 




この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者

経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家


NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。


慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。


専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。

西村健

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