「都知事選、終わってみれば」その3石丸現象の行きつくところ
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【まとめ】
・東京都知事選で石丸伸二氏、3位に沈む。
・選挙特番なので石丸氏、コメンテーターらとのやりとりかみ合わず。
・ネットと政治の関係を改めて考えるきっかけに。
得票数1,658,363。都知事選で石丸伸二氏が獲得した票数だ。
「石丸現象」、「石丸ショック」、「石丸旋風」などなど、メディアが命名したフレーズが飛び交っているが、実際、そういっていいほどのインパクトがあった。
石丸伸二氏。選挙前には知らなくても、もはや都民ならその名を知ったことだろう。広島県安芸高田市市長を1期務めて都知事選に打って出た。安芸高田市は広島県北部にある人口約2.6万人の市だ。石丸氏の出生地でもある。2020年に元市長が元衆議院議員の河井克行から現金計60万円を受け取った責任をとり、市長を辞職したことにより行われた市長選挙で当選した。
議会との対立をYoutubeで配信、筆者も去年から視聴していた。議会と首長がけんか腰で答弁を繰り返すなんて滅多に見られない場面だから、面白く拝見していた。(そもそも自分の住んでいる自治体の議会を見たことがある人のほうが少ないだろう)それなりに視聴数は稼いでいたと思うが、まさか都知事選に出るとは予想していなかった。聞けばドトールコーヒー創業者の鳥羽博道名誉会長らの応援を受けたという。他にも、カリスマ選挙プランナーやらいろいろな人が支援してチーム石丸ができたというのが経緯だ。
それにしても毎回都知事選にはドラマがある。全く無名の挑戦者が出馬し話題になる。過去を振り返ってみた。
2014年の都知事選。連続起業家の家入一馬氏が立候補し、注目を集めた。当時35歳だった。「1000リツイートで都知事選出馬」という何気ないTwitterでの一言から始まった選挙戦。出馬会見では「政治をハッキングしたい」としたうえで、「『僕らの公約』みたいなハッシュタグつくって、最終的にみんなで政策つくれれば超すごくないですか?」などと述べた。
また家入氏は政治団体「インターネッ党」を立ち上げ、堀江貴文氏が供託金を支援するなど、話題にことかかなかった。しかし結果は、舛添要候補が2,112,979票で当選。家入氏は、宇都宮健児候補982,594票、細川護熙候補956,063票、田母神俊雄候補610,865に次ぐ、5位で88,936票に止まった。
次の2016年の都知事選は、小池百合子氏が出馬。「小池旋風」が吹き荒れ、小池氏が、自民党推薦の増田寛也と立憲民主党推薦の鳥越俊太郎氏を破り当選。小池百合子氏2,912,628票、増田寛也氏1,793,453票、鳥越俊太郎氏1,346,103票だった。このときは、若いチャレンジャーは出てこなかった。
そして、2020年。このとき、今回の石丸氏のような候補者が現れた。小野泰輔氏。熊本県副知事から日本維新の会の推薦を受け都知事選に打って出た。しかし、圧倒的人気の小池氏が3,661,371票で当選。小野氏は、宇都宮健児氏844、151票、山本太郎氏652,277票についで4位となり、652,277票獲得で敗北した。2021年の衆院選に東京1区から立候補し、比例東京ブロックで復活当選している。
そして2024年の今回の都知事選。過去を振り返ってみてみると、2014年はまだインターネットはいまほど政治には関わりがなかった。ネット選挙が解禁になったのは2013年の参院選から。まだ手探りだったのだ。Tweetしたり、Youtubeで動画配信したりする政治家も少なかった。TikTokもサービス開始前だった。(日本でのサービス開始は2017年から)
ネットを駆使し、アテンションを集め始めたのは、NHK党の立花孝志氏あたりではないか。結党は2013年。芸能人のスキャンダルを暴露して人気を博したユーチューバー、ガーシー氏が参院選で当選したのが2022年だ。
そうしたなか、広島県の1自治体の市長になった石丸氏。インターネットを駆使した情報発信はお手の物だった。市議会議員をやり込める動画を編集してアップするものも現れた。さらに切り抜き動画も大量にアップされるようになった。ネットによる業務委託大手「クラウドワークス」には、「石丸市長・政治会見の切り抜き」といった、動画編集作業者募集の案件がたくさん上がっていた(現在は募集終了)。こうした勝手連的な動画投稿者がさらに石丸人気に火をつけたといえよう。
蓮舫氏の自爆という敵失はあったにせよ、1,658,363票は脅威的としかいいようがない。次は国政、岸田首相のお膝元広島1区から衆院選出馬をにおわせる。
インターネットの威力には驚くばかりだが、持ち上げたと思ったらいきなり手のひら返しが起きるのもネットの世界。すでにアンチが出てきた。
選挙後のメディアとのやりとりでも、ちぐはぐな受け答えに終始した。
160万票を獲った全能感からなのか、それとも素なのか、日本テレビ公式ユーチューブチャンネルの選挙特番生配信に出演したとき、社会学者の古市憲寿氏とのやりとりは全くかみ合わないまま終了。その他のメディアに出演したときも、けんか腰か、逆質問で返してはぐらかす、さらには小馬鹿にしたような対応に終始、視聴者として疑問符だらけとなった。
「石丸構文」などと揶揄する向きもあるが、そういうことではなく、聞かれたことにはちゃんと答えましょう、ということにすぎない。メディアは視聴者や読者の代わりに質問しているだけであり、仮にその質問が「腑抜けたもの」(本人談)だとしても、真摯に向き合うべきものだ。言葉に権威あらしめよ。聞いている人は、その人の発する言葉で、品格、人格、能力を見極める。いくら自分が正しいと信じていたとしても、相手を見下す人間に政治は無理だろう。(政治だけではないが)
古くは橋下徹大阪府知事とメディアのやりとりを思い出す。あれも当時はさんざんもてはやされ、メディアをこき下ろす一つの象徴だった。しかし、氏は、今やテレビのコメンテーターとして高説を唱える立場。当時のとがった雰囲気は大分封印されている。
石丸氏が国政に出るのか、新党を作るのか、本人のみぞ知るだが、ネットと政治の関係に危うさを感じたのは筆者だけではないだろう。
トップ写真:日本記者クラブ主催の東京都知事選立候補予定者共同記者会見に臨んだ石丸伸二氏(左) 2024年6月19日 東京都・千代田区
出典:Tomohiro Ohsumi/Getty Images
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この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。