【都知事選、本当の争点】⑨(最終回)都知事選有力3候補人間力分析

西村健(NPO法人日本公共利益研究所代表)
【まとめ】
・小池百合子氏は、都職員のやりがいやエンゲージメントを企画していくことが課題。
・蓮舫氏は、人と調和していく、人と心を通わすことが課題。
・石丸伸二氏は、人と調和していく、人と心を通わすことが課題。
4年前に話題になった「人間力分析」。またしてもこの季節がやってきた。政治家を公約で評価するのもいいが、人間的に信頼できるか?という面で判断してもいいし、直観で選んでもいいのだ。
政治家を選ぶにあたって人間性を見ることの視点を提供したいと思う。人事コンサルの筆者を中心に、筆者の師匠でもある一般社団法人日本声診断協会代表理事・株式会社ターンアラウンド研究所のキャリアコンサルタント中島由美子氏、故・玉置和郎衆議院議員や平沢勝栄衆議院議員などに秘書として仕え多くの政治家を見てきた沖見泰一氏など多数の方に協力をいただいた。人間力分析、いざスタート!
1 小池百合子氏

▲写真 都政改革本部でインタビューに答える小池さん(筆者撮影)
(1)分析
1952年、兵庫県芦屋市生まれ。芦屋市立岩園小学校、甲南女子中学校・甲南女子高校に卒業、関西学院大学社会学部に入学。その後、カイロ大学を卒業後、キャスターを経て政界入り。その後は、環境大臣、防衛大臣などを歴任。状況を見て政党を渡り歩くところ、1人のボスについていかないところに、上昇志向の強さ、機を見るに敏であることが感じられる。また、その喋りや発言・プレゼンテーションは素晴らしい。
都民のために着実に必要なことをやってきたこの8年。権力闘争のためにか、何のためにか、自民党や公明党も取り込んでしまう政治力の強さを見せている。
「女帝」という評があり、都庁内でも、「企画担当を中心に退職者が続出」との指摘もある。実際、都庁人事を見ると、情実人事があるかは不明だが、人事異動にリーダーシップを発揮していることは確かである。
さらには、カイロ大卒業の疑惑があり、隠ぺい工作があったと証言する元部下が現れる始末である。小島敏郎弁護士とは一時は二人三脚で動いていたはずだが、虚偽事項公表罪で刑事告訴までされてしまった。
三井不動産への都庁官僚天下り問題や外苑再開発問題は小池さん以前の都政の利権構造なので、批判されるのはさすがにかわいそうであるが、正面からの批判に回答せず、あいまいな発言でけむに巻く、とてもしたたかで、分析能力と対応能力の高い人である。謝ったり、人に頭を下げるのが苦手なそうだが、「世論を沸かす天才」と言われるその能力で、都政で実績を重ねてきた。
声診断の専門家の中島由美子氏によると「都民のニーズや傾向を汲み取る才能にたけている。演説内容も都民の心を惹きつける内容を話せる」「先を見据える能力が抜群に高く、時代に合わせた政策を産み出すセンスがある」との分析だ。「とてもエネルギッシュに都政に取組んでいけるタイプ」との診断結果も出た。確かに前前回選挙でも小池候補の演説では足を止める人の割合が相対的に高かったように感じられた。
顔相診断では、「マイペースで周囲を思いやる懐の深い性格がにじみ出て」いて、「もともとは、おおらかで協調性もある。周囲に好かれるタイプ」(2016年7月19日、日刊スポーツ)との指摘。さらに「顔の輪郭は丸みを帯びており、社交的で同時に複数のことをこなす能力にたけている」とのこと(同上)。ちなみに血液型はA型である。
(2)当選後の課題
当初掲げた「情報公開」を実践するため、丁寧に説明をしていくこと、説得していくことだろう。神宮外苑の問題は、前任者や前前責任者、前前前責任者の行動がどうであったのか、何が問題だったのかを明らかにして、反対の方々と丁寧にコミュニケーションをとっていくべきだろう。
都政を進めていく上で、課題は都庁職員からの信頼。都庁職員の評価は「小池知事1年目の点数は平均で46.6点」と低いし、近年では退職者も目立っている。都政DXを進めてきたGOVテックのような素晴らしい活動を踏まえながら、職員のやりがいやエンゲージメント(組織貢献)を企画していくことが課題であろう。
2 蓮舫氏
(1)分析
1967年11月28日東京都目黒区生まれ。台湾人の父と「ミス・シセイドウ」であった母との間に長女として生まれる。幼稚園から青山学院でエスカレーター。青山学院大学法学部法律学科卒業。タレント、ニュースキャスターを経て、2004年参議院議員選挙で初当選。4期20年、行財政改革や子ども・教育関連政策に取り組んできた。
切れ味鋭い指摘、能力の高さが際立つ。本連載でも政策やこれまでの活動をチェックしたが、非常にまじめで、努力家の印象である。ストイックに調査し、分析するところをみると官僚レベルをも超えた知的能力を持っている。行政改革だけでなく、皇室についてなどかなり熱心に勉強している。
関係者に聞くと「一般的な印象は、相手を追求するのは得意だけど、自分が批判されると弱いとか、いつも文句ばかり言っているというものでしょう。それは一部は言えますが、実はものすごい勉強家」との評価である。実際、話を聞いてみるとイメージと現実にかなりのギャップがある。人間関係においても、「義理や人情には厚い」という仁義を切る人間らしく、部下に対しても「叱ることはするが、怒らない」姿を見せるとのこと。他の人に迷惑かけたりする行為には厳しいが、気遣いをし、先回りして考える「目配り気配り心配りの人」という評価が多かった。ただし、「見て見ぬふりができないタイプ」との評価も多く、正義を貫く部分は強いようだ。

▲写真 【出典】中島由美子氏提供、波形
声診断の中島由美子氏によると「責任感、正義感に溢れている」ことが明らかになっている。
「社会を良くしたい、改革したいという強い気持ちで使命感を持っている」ことも証明されている。ただし、多くの政治家を見てきた社会活動家の沖見泰一氏によると「ほんわかさ、包み込む、女性愛を出す点が苦手ではないか。そこが感じられないのは惜しい」との評価である。
(2)当選後の課題
全事務事業のレビューを掲げているが、実際都庁職員の負担は相当になることも確かである。見直すことでの反発もある。事務事業を執行する都庁職員や事業費の裏には、それなりの利害関係者がいる。そこを見据えつつ、利害関係者を説得・納得・利害をあきらめてもらうにための綿密な戦略が必要なので、その点、慎重な検討や多方面からの情報収集が必要だろう。
一気に進めるのではなく、徐々に、小池さんに学んで人事異動や世論をうまく巧妙に活用して、進めていくべきだろう。都庁職員のプライドや過去の思いを十分ヒアリングして、彼ら・彼女らを味方にして、蓮舫さんの「社会正義」の理解者を増やして、思いの強い職員たちを仲間にして「本物の行政改革」を進めていくべきだろう。
中島由美子氏によると、声診断からうかがえた課題は「人と調和していく、人と心を通わすこと」である。「自分の正義を貫く、やりたい改革ではなく、都民の声を聞くことが大事である」と指摘する。つまり、相手の足りないこと、相手の困ったことに寄り添い、相手の事情を分かって、できるだけ理解してあげること、その姿勢を示すことだ。中島由美子氏はもう1つ課題を言う。「自らが政治家を志した本当の使命を思い出すこと。庶民の感覚を思い出し、慈愛の心で政治を行うこと」だ。
非常に能力が高く、まじめで誠実で、自分に厳しい人なので、意外に都庁職員から信頼される可能性が高い。都庁職員や都民をいかに味方につけるのか、その情熱や使命感を大事にしつつ、相手に対して親身に誠実に向き合い、その問題意識をもとに「共感」の輪を広げていくこと。巻き込んでいくことが重要になってくる。
3 石丸伸二氏
(1)分析
1982年8月12日生まれの41歳。安芸高田市、旧吉田町立吉田小・中学校、県立祇園北高等学校を卒業。浪人ののち京都大学経済学部へ進学し、卒業後は三菱東京UFJ銀行を経て、安芸高田市長に。Youtuberとしてそのやり取りが話題になり、大人気になって都政に進出してきた。また「恥を知れ、政治家」「政治屋の一掃」といった過激な発言で特定の立場や利害を守る人たちに対しての明確な挑戦状をたたきつける。爽快さと大胆さ。「半沢直樹」の主演男優に似てなくはないが、その正義あふれる主張はもちろん、いかにして「バズる」かを考えて行動する戦略家でもある。
既得権益からの反発や反感に対しても宣戦布告を突き付けるやり方は政治から「取り残されている」「何かおかしい」と感じたり、政治不信を持っている人にとっては「神」のように感じるだろう。それが熱狂の原因でもある。
本連載でも政策を分析したが、政治基盤が弱い中、安芸高田市ではよくやったと評価できる。また、ある関係者の言うことを聞くことが「利権主義になる」として取次ぎもしないなど、清廉潔白さも人気の原因だろう。

▲写真 【出典】中島由美子氏提供、波形
中島由美子氏によると「常に客観的に物事を観る目に長け、物事の本質をつく鋭い視野を持っている」とのこと。「私利私欲ではなく公僕として社会を良くしたいという思いを持っている」政治家のようだ。

▲写真 【出典】中島由美子氏、株式会社ターンアラウンド研究所HP
また、「インフルエンサーとして世の中に影響を与える力の強さを表している」こともうかがえる。社会活動家の沖見泰一さんによると「頭がいい。どこを攻めるかはわかっていて、喧嘩上手である」との評価である。
(2)当選後の課題
課題について、中島由美子氏は「統計、データ、効率化、費用対効果などロジカル、ビジネス的なもので物事を判断しがち」であるということを指摘する。「人が幸せに生きることや命の尊さなど、数字や理屈では理解できないものへ敬意を払うなど、精神性を高めていき、それを政治に生かしてこそ、本当の改革が行えると思う」と提言する。
そのまじめな姿勢、行政を分かっている面で、職員からは信頼を得ると思うが、東京都庁は巨大な組織で、多くの職員がいる。それなりにプライドが高い人も多い。組織マネジメントにおいては苦労することも多いだろう。退職者が増えていて、採用も苦戦し始めている東京都庁においては人材育成に力を入れることが重要であろう。
政治家として、都議を説得して、納得してもらい、大人としての関係性を作っていくことが重要であろう。「敵を作り、相手をやっつける」対決姿勢を示す、そういった「劇場型政治」を作ること、爽快さで人気を博すかもしれないだろうが、政治は妥協の技術である。一人ではできない。誰も取り残さないのが政治家の使命であることを忘れてはいけないと思う。
以上が「人間力分析」です。あくまで私の意見ですし、人生の先輩や候補者をよく知った方からは「違う」「わかっていない」との声があるだろう。あくまで多くの政治家を現場で見てきた経験や人材育成の専門家としての意見にしかすぎない。候補者のうちどなたが都知事になるにせよ、課題を意識して頑張ってもらいたいという気持ちを込めたので、その点ご理解頂けると幸いです。

▲写真 田母神さんと社会活動家の沖見泰一氏、御茶ノ水駅前にて(筆者提供)
最後に。田母神俊雄さん、清水国明さん、ひまそらあかねさん、安野たかひろさん、黒川あつひこさん、うつみさとるさん、桜井誠さん、ドクター・中松さん、ゴトウテルキさん、河合ゆうすけさん、野間口翔さん、さわしげみさん、大和行男さん、木宮みつきさん、小野寺こうきさん、しんどう伸夫さん、竹本秀之さん、AIメイヤーさん、桑原まりこさん、福本繁幸さん、桑島康文さん、ないとうひさおさん、内野愛里さん、石丸幸人さん、尾関あゆみさん、小松けんさん、かがたたくじさん、福永かつやさん、犬伏宏明さん、武内隆さん、遠藤信一さん、上楽むねゆきさん、二宮大造さん、中江ともやさん、ふなはしゆめとさん、山田信一さん、加藤英明さん、草尾あつしさん、津村大作さん、横山緑さん、前田太一さん、みなみ俊輔さん、ふくはらしるびさん、木村よしたかさん、三輪陽一さん、松尾芳治さん、ホカリジンさん、小林弘さん、加藤健一郎さん、向後真徳さん、うしくぼのぶおさん、古田真さん、アキノリ将軍未満さん。勇気をもって立候補された候補者の皆様、紹介できずすみません。また、都民の皆さんこちらをしっかり見て投票に行ってください。
【候補者の皆様情報】
https://r6tochijisen.metro.tokyo.lg.jp/governor/index.html
<注>本文は筆者の専門家としての意見であり、公平中立に評価したものです。これら意見は、所属組織には関係ありません。
トップ写真:都知事選候補者討論会に出席する候補者ら 石丸伸二氏、小池百合子氏、蓮舫氏、田母神俊雄氏(2024年東京都千代田区)出典:Yuichi Yamazaki – Pool/Getty Images
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この記事を書いた人
西村健人材育成コンサルタント/未来学者
経営コンサルタント/政策アナリスト/社会起業家
NPO法人日本公共利益研究所(JIPII:ジピー)代表、株式会社ターンアラウンド研究所代表取締役社長。
慶應義塾大学院修了後、アクセンチュア株式会社入社。その後、株式会社日本能率協会コンサルティング(JMAC)にて地方自治体の行財政改革、行政評価や人事評価の導入・運用、業務改善を支援。独立後、企業の組織改革、人的資本、人事評価、SDGs、新規事業企画の支援を進めている。
専門は、公共政策、人事評価やリーダーシップ、SDGs。
