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.国際  投稿日:2017/2/5

J-POPは日韓関係を救うか


李受玟(イ・スミン/韓国大手経済誌記者)

【まとめ】

・韓国でJ-POPを聴く人の割合は5%

・「君の名は。」のヒットでJ-POP人気高まる

・日韓関係悪化がJ-POP人気に水を差す

 

 ■5

5%。これは一体、何を意味する数値だろうか。韓国人の高所得者層である年収1億2,000万ウォンの人たちの比率?それとも韓国の2017年度大学修学能力試験を受験した学生の中でソウルにある大学に入学できる人の割合?いや、ここで取り上げようとしている数字“5%”は「J-POPの不毛の地」と呼ばれる韓国でJ-POPを聞く人を意味する数値だ。

韓国人は好きな歌手のアルバムを買うより、APPLE MUSICのようなストリーミングサービス·サイトで音楽を聴く場合が多い。メロンやネイバーなど大手の情報技術(IT)企業が運営するオンラインの音源ストリーミングサービスサイトがリードしている韓国のアルバム市場は通称「ガヨ(歌謡)」のK-POPとアメリカやイギリスなど英語圏のポップソングが主流だ。その次はクラシックと映画や広告のOSTがその次を占める。J-POPを含めいわゆる「海外音楽」は選好度の最後に位置する。

全世界にわたって多くのファンが存在しており、関連市場の売上高が米国より大きい日本の音楽が韓国で人気がほとんどない理由はどこにあるのだろうか? 音楽業界の関係者らはいくつかの原因があるが、まず日本語の放送を禁止した政府の規制を原因の一つとみる。またK-POPが韓国人の好みに合わせて成功したことや、たくさんの韓国人に残っている反日感情なども韓国でJ-POPが「マイナーな趣味」と認識される理由であった。その結果、日本で大人気のミュージシャンたちが韓国に進出するのを避ける悪循環が続いている。

そして長い間、韓国のJ-POPの市場を支えているのはアニメだった。地上波TVとラジオ放送は日本語を流すことが根本的にできないからだ。でもケーブルチャンネルでは日本の人気アニメが原作そのまま放送される。その結果、日本で広く人気がある音楽よりヴィジュアル系やアニソングなど、サブ・カルチャーが先に韓国に紹介されて人気を集めた。韓国で出版された新刊『あなたが知るべき日本の歌手』を書いたファン·ソンヨップ氏はこれについてこのように指摘している。「日本の音楽は(韓国で)多くの偏見を受けてきたコンテンツの一つである。(その理由は)長い間日本の人たちが普遍的に聴いた音楽ではなく、 一部のマニアに限られたサブ・カルチャーの音楽が先に流入したからだ。」

ストリーミングサービス·サイトの人気チャートを見ると日本のトレンドからは相当かけ離れている現実が明らかになる。上位100の中で「L’Arc-en-CielのDriver’s High(16位)」や 「中島美嘉の雪の華(89位)」、「X-JAPANの Endless rain(26位)」など1990年~2000年代の曲がいまだに残っている。その以外はEXO、BIGBANGのように韓国のアイドルが発売した日本語バージョンのアルバム、歌詞のない曲を作るAcoustic Caféが占めている。

業界の地形を左右するほど強力な規制があるにもかかわらず、最近韓国のJ-POPファンたちが大興奮した事件が相次いだ。そのスタートは人気のアニメ『ハイキュー!! 』のテーマ曲を歌ったロックバンド「SPYAIR」であった。昨年12月初旬に開かれたこのバンドのコンサートは1年前より2倍程度大きいコンサートホールで開催され全席売り切れとなった。一部のチケットは3倍以上の価格で取引された。コンサート当日にはグッズを購入しようとする10~20代のファンの列が近所を埋め尽くすほどだった。コンサートを企画した関係者は公式ツイッターで「成功裏に来韓コンサートを終えた」と語った。

その次は日本でもよく知られている「SEKAINOOWARI」だった。2012年と2016年, 韓国のロック·フェスティバルに参加した彼らは韓国で初の単独コンサートを行って以来、かなりの関心を集めている。コンサート·チケットを手に入れるのは極めて難しく、販売開始から3分以内に売り切れ。一部のファンは「サイトにアクセスさえできなかった」と言うぐらい、大勢の人々が押し寄せた。ファンの期待は失望に変わり、「コンサートを企画した会社が日本のファンに座席を先に販売した」といううわさがツイッターなどSNS上で流れた。日本のオークションなどで定価8,000ウォンより約2~3倍高い価格でチケットが販売されているという話も出た。

企画社のライブ・ネイション・コリアは、 プレミアチケットの疑惑を強く否認しており、「韓国の前売りサイトのみチケットを救うことができた」という点を強調した。結局、その疑惑はミュージシャンと協議してコンサートを1日延長することが発表されて消えた。そして追加の2,300席も5分以内で完売。音楽業界の人たちはこの状況について「極めて異例」と驚きを示した。

もうひとつは映画『君の名は。』から始まった。歴代の日本映画の興行成績1位として浮上したこの映画は342万人の観客たちに「新海誠」という名前とともにOST(オリジナルサウンドトラック)を制作した「RADWIMPS」の名を刻印した。短い期間に知名度を上げた RADWIMPSはストリーミングサービス·サイトで人気がうなぎ登りし、新しいJ-POPを待っていたファンに愛されている。

 

■異なる魅力、そして・・・

韓国で日本のミュージシャンがこんなに注目を集めるようになった理由は何だろうか。単に一部のミュージシャンたちの活躍のせいなのか、それとも韓国でJ-POPそのものの人気が高くなってきたせいなのか。業界の専門家らはK-POPの市場と密接な関連があると見ている。ダンスに特化したアイドルグループが引っ張って行くK-POP。韓国のアイドルグループは自国で「韓流を率いる存在」として讃えられるが、韓国人すべてがアイドル系が好きなわけではない。歌い方や舞台のコンセプト、ダンス、歌手一人ひとりのイメージなどお互いに重なる部分が多いこのアイドルの存在は一部の韓国人たちに「意味のない」相手かもしれない。そして、その代わりにJ-POPに定着したという見方もある。

しかし、このような説明だけでは1990年代から(やっと)継いできたJ-POPの人気が急上昇して来た理由を説明することはできないだろう。答えは先に言及した成功的なケース(SPYAIRとSEKAINOOWARI)の秘密にあった。

韓国で彼らのアルバムを販売したソニーミュージックやコンサートを企画した人に取材した結果、成功の手がかりは韓国のファンたちを忘れずコミュニケーションを取ろうとするミュージシャンたちの努力であった。ソニーミュージックの関係者は「音楽はいくら商業的にアプローチするとしても、結果的に音楽を好んでくれて、聞いてくれる人たちがいなければならない。特に、(ファンたちの熱情に)持続的に恩返しをしてくれるようなアーティストが現れてこそ、底辺が拡大する」と話した。

他の関係者も韓国に進出した直後にすぐ単独のコンサートができなくても持続的に韓国を訪問し、ファンクラブとの関係をよく作るなどミュージシャンのたゆまぬ対応が必要だと語る。SEKAINOOWARIの公演を企画したライブ・ネイション・コリアも「ミュージシャンが韓国を含め国外の活動に力を入れている(からいい結果が出る)」と指摘した。 ライブ・ネーション・コリアの関係者は来韓の日程を1日追加したことについて「アジアで活動を広げようとする計画を持っていたミュージシャンと韓国のファンたちの高い関心が的中した」と説明した。

 

■まだ壁はあるが・・・

約20年間、韓国でJ-POPを消費してきた筆者としてこのようなニュースはショックだったが、同時に嬉しいことであった。しかし「オタクだけの祭り」というイメージが強い日本の歌手のコンサートがこれから継続して成功的に開催されるかどうかは不透明だ。そして彼らのアルバムが韓国市場の主流となる可能性はもちろん低い。韓国政府がいきなりJ-POPの放送を許可しない限り、急なファンの増加は難しいからだ。しかも両国の関係が最悪の今は、文化交流の機会も減る見通しだ。

両国の関係が悪化するに従って日韓の交流が少なくなれば韓国でJ-POPのファンは減少する可能性が高い。韓国政府が特定の国から輸入するドラマや音楽を完全に禁止することはないと思うが、個人的にJ-POPがタブーになるかもしれない。今も韓国のJ-POPファンの中には、自分が好きな歌手を人の前で話さない場合が多い。相手が日本やJ-POPについてどんな考えを持っているのか不明なら、意見の表明は危険なことだ。ライブ・ネイションの関係者はこれに対してこう語った。「日本の音楽にはまったマニアはかなり多いが、彼らは自分が日本の音楽を聞くという事実を他の人に明らかにしない。そのために(日本の歌手の)コンサートの需要に対する予測をすることが英米のポップ歌手たちに比べてかなり難しかった。」

「文化の交流をもとに両国の未来を志向する関係を作っていく」という主張は、両国の関係をめぐる様々な懸案を無視する理想論だとよく批判される。少女像の問題など、両国のトップの決断があったにもかかわらず、解けない問題はまだ山ほどある。20年前も今も、そして20年後にも、韓国と日本の若者は過去から自由ではないだろう。でも排斥よりは交流を、憎悪よりは愛を選択する人が増えることを希望する。

「私たちの国籍は違っても、音楽を通じて仲がよくなったらいいと思います。」韓国のファンにこう声をかけた、ある日本のミュージシャンの一言が現実になる日はいつ来るのだろうか。


この記事を書いた人
イ・スミン韓国大手経済誌記者

2008年11月~ 2009年8月 一般企業(商社)勤務2009年2月  延世大学卒業2010年~   大手経済紙 記者

イ・スミン

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