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.国際  投稿日:2017/2/2

「慰安婦像」メディアの奇妙な態度


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

日韓関係を悪化させる慰安婦問題について日本の主要メディアが慰安婦像を「慰安婦像」と呼ばず、韓国側の主張におもねるように「少女像」と呼ぶ奇妙な実態についてはすでに報じた。(「慰安婦像を少女像と呼ぶ愚」2017年1月8日)

韓国側がいまソウルの日本大使館前や釜山の日本総領事館前に法規を無視して建てたままの像は疑いなく慰安婦像である。制作者がまず慰安婦を模して作ったことを明言している。そもそも単なる少女像であれば、政治的な問題などなにも起きないだろう。

だが日本側の朝日新聞やNHKは「慰安婦を象徴する少女像」などという屈折した呼称を使い、同じ報道の中で二度目以降にそれが出てくれば、すべて「少女像」と呼ぶ。日本政府の高官の一部にも「少女像」という表現を使う人たちがいた。

だが1月31日の参議院予算委員会の基本的質疑の場では安倍晋三首相と自民党代表の片山さつき参議院議員とがそろって「慰安婦像」という表現を明確に使った。「少女像」とはいわなかった。国会という公式の舞台での国民に向けての討論の際の明言だった。日本政府としては慰安婦像を「慰安婦像」と呼ぶことの内外に向けての宣言だったともいえよう。

であれば主要メディアもその呼称に従うのが自然だろう。日本国の行政府の長と立法府の与党代表が採用し、使用した呼称だからだ。だがそうはならなかった。主要メディアの態度はますます奇妙キテレツなのである。

まず片山議員の質問と、それに対する安倍首相の答えの中の慰安婦像に関する部分を紹介しよう。

片山議員:「(韓国内の)慰安婦像が撤去されない限り、日韓スワップ(通貨交換)協定の交渉は凍結するべきだ」

安倍首相:「日韓慰安婦問題合意は国と国の信用をかけて約束したものだ。日本の義務はすべて果たしてきた。韓国にも誠実に履行するよう粘り強く求めている。釜山の日本総領事館前に慰安婦像が設置されている事態を受け、当面の措置として(日韓スワップ協定の)協議を中断した」

きわめて明確な「慰安婦像」という表現だったのだ。さてこの質疑を主要メディアはどう報じたのか。安倍首相と片山議員が口にした慰安婦像という言葉をそのとおりに報道したのか。

まず読売新聞1月31日朝刊をみよう。「国会論議の詳報」というページでは確かに片山発言、安倍発言の要旨を伝えるなかで発言者の表現どおり「慰安婦像」という言葉を使っていた。いくらなんでもこの「詳報」でまで、当事者が口にしていない「少女像」という言葉に置き換えることはできなかったのだろう。

ところがおもしろいことに同じ日の読売新聞は同じ朝刊の別の記事では従来どおりの「慰安婦を象徴する少女像」という表現を使っていたのだった。支離滅裂ともみえかねない紙面となったのである。

日本経済新聞1月31日朝刊は首相の公式表現をものともせず、「少女像」という用語の連発だった。同新聞は前日の参議院予算委員会の質疑応答での慰安婦像への言及は一切、報道しなかった。

しかもこの日本経済新聞の記事は日本と中国、韓国との首脳会談についての日韓関係に関連する解説部分で「従軍慰安婦を象徴する少女像」という表現を使っていた。その同じ記事で続いて「少女像」という言葉が4回も連続して出ていた。そのなかには「日本政府はこれまで釜山の少女像設置と日中韓首脳会談の開催を切り分け」という記述もあった。もし日本政府が主語の文章で慰安婦像に言及するのなら、当の日本政府が少女像ではなく、慰安婦像という用語しか使わなくなったのだから、日本経済新聞もそれに従うべきだという考え方も当然、出てくるだろう。

日本経済新聞のこの記事には「少女像」という言葉は見出しにまで出ていた。「少女像設置、1ヵ月 3首脳に壁」という見出しだった。どういうわけか、この新聞は慰安婦像に対してはあくまで少女像という呼称が好きなようなのだ。

慰安婦問題では韓国側の主張を最も熱心にプレイアップしてきた朝日新聞は1月31日朝刊では「慰安婦像」も「少女像」とも無縁だった。安倍首相の国会答弁で慰安婦像という言葉が出たことさえ無視だった。

さて主要新聞各紙は日本政府が正式に「慰安婦像」と呼ぶようになった慰安婦像をいつまで「少女像」と呼び続けるのだろうか。


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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