米、イスラエル両国首脳夫人メディアに不満
古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・トランプ大統領がイスラエルを訪問。
・歓迎式で、両国首脳夫人がメディアへの不満を口にした。
・地元テレビ局がそれをつかんで放送した。
就任後に初めて外国訪問の途についたアメリカのトランプ大統領はサウジアラビアに次いでイスラエルを訪れたが、イスラエルでの5月22日の歓迎式では両国首脳の夫人がともにニュースメディアへの不満や怒りを語りあうという異例の光景が展開された。
政治家とメディアという課題は政治家自身だけではなくその家族までを大きく揺さぶるという点でイスラエル、アメリカの両首脳夫人は共感を確認したようだ。
トランプ大統領は22日、イスラエルのテルアビブに着き、空港での歓迎式にのぞんだ。同大統領とすればワシントンではFBI(連邦捜査局)長官の解任やロシア疑惑を捜査する特別検察官の任命などで激風にさらされていた時期の外国訪問とあって、やや安堵の表情もみせる外遊となった。
とくにイスラエルではトランプ大統領は旧知のベンジャミン・ネタニヤフ首相に温かい歓迎を受けた。同大統領はオバマ前大統領にくらべてイスラエルをずっと重視する政策を明らかにしており、ネタニヤフ首相からはその路線への積極的な対応の意向がすでに表明されていた。
このためテルアビブの国際空港でのトランプ大統領歓迎式は両首脳の夫人も加わり、両国の絆の再確認を強調する空気が盛り上がった。そのなかでネタニヤフ首相のサラ夫人はトランプ大統領のメラニア夫人と並んで座り、言葉を交わしていた。この女性同士の会話の内容の一部をイスラエルの地元テレビ局がつかんで、報道してしまった。
サラ夫人 「ここイスラエルでは国民はみな私たち夫婦を好いてくれるのですが、ニュースメディアは私たちを嫌っているのです。あなた方も同じようですね」
メラニア夫人 「ええ」
すると、そこで脇にいたトランプ大統領がサラ夫人の言葉を引き取って、答えた。
トランプ大統領 「そうです。私たち夫婦は共通点がたくさんありますね」
サラ夫人 「ええ、夕食のときに、そのことについてもっと話をしましょう」
一般に明らかにされたのはわずかこれだけの言葉のやりとりだったが、そこでは両首脳がそれぞれ自国内でメディアの厳しい批判を浴び、それに対して反撃を試みているという実態の一端がはっきりと浮かびあがったわけだ。
ネタニヤフ首相もトランプ大統領と同様に保守政治家としてリベラル・メディアとの衝突が多く、昨年12月にも「ネタニヤフ首相は2人の疑惑のビジネスマンから高価な贈物を受け取った」と一部のメディアに報道された。同首相はやましい点はまったくないと否定したが、なおメディアは捜査当局をも動かして、疑惑の追及を続けている。
サラ夫人はそうした状況を踏まえた形で、メラニア夫人にもメディアとの衝突について率直に非公式な会話の優先話題にしたというわけだった。
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。