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.国際  投稿日:2017/12/26

中国、カリブに照準 台湾完全追放へ


山崎真二(時事通信社元外信部長)

 

【まとめ】

・中国がドミニカ共和国に接近、インフラ建設への大型支援と引き換えに国交樹立を求め、台湾との断交迫る。

・中国は「ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC)」を積極支援、中米カリブ10カ国と国交樹立を目指す。

・“台湾断交ドミノ”阻止のため、台湾も必死の外交を展開中。

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て表示されず、写真説明と出典のみが記載されることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=37611でお読みください。】

 

 中国は国際社会から台湾を完全に締め出すのか。そんなことを予感させる動きが今、中米で起きている。

狙われるドミニカ共和国 

 「この国が台湾と断交、中国との国交へとカジを切るのはほぼ確実」-こう語るのはカリブ海の島国ドミニカ共和国で長年、自動車関連ビジネスに携わってきた日本の中堅商社幹部。

 ドミニカ共和国は、台湾とは中華民国時代の1932年から外交関係を維持してきたが、ここ数年、中国が急接近しており、台湾との断交を迫っているとの多数の情報が流れている。

 「今春以降、中国は経済ミッションをたびたび派遣し、ドミニカ共和国のインフラ建設への大型支援を表明、国交樹立を求めている」(前述の日本商社幹部)

 「中国は『1つの中国』の原則を盾にドミニカ共和国側にイェスかノーかを迫っている」(在京ドミニカ共和国大使館関係者)

 「中国はドミニカ共和国との間で貿易、観光、教育、エネルギー、文化など多面的な分野で関係を強化しており、11月末にサントドミンゴ(同共和国首都)で開催された貿易博覧会に中国企業80社が参加した」(在京中国大使館筋)

 それにしても、国際情勢にそれほど影響があるとは思われないカリブ海島国への中国の攻勢がなぜ、クローズアップされるのか、との疑問がわく。実はドミニカ共和国は中国に狙わられる重要な要素があるのだ。

 ドミニカ共和国は、カリブ海西インド諸島中部のイスパニョーラ島東側に位置する。(ちなみに、カリブ海には同じ「ドミニカ」の名を持つドミニカ国も存在するが、こちらは英連邦の一員で別の国)同共和国の国土は九州より少し大きい程度だが、人口は約1千万人。従来からの観光業に加え、自由貿易地区(フリーゾーン)を利用した繊維輸出業が盛ん。金、銀およびニッケルなど鉱物資源も豊富で近年、経済成長が著しい有力新興国だ。

 ニューヨークの国連本部政治局で中南米地域をウォッチしている専門家は「ドミニカ共和国が中米、南米でプレゼンスを増していることを考えれば、中国が目を付けないわけがない」と言う。ドミニカ共和国は主に中米カリブの25カ国で構成する「カリブ諸国連合」(ACS)の原加盟国で、中米の経済統合・発展を目指す「中米統合機構」(SICA)の一員でもあり、2018年1月からはSICAの議長国を務める。

中国とカリブの意外な関係

 同専門家によれば、より重要なのは、同共和国が中国との関係が強い「ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体」(CELAC)の議長国を務めるなど、CELACのメンバーとして活発に活動している点だという。

 CELACは日本ではあまりなじみがないが、中南米の統合を将来的目標に掲げ、同地域の33カ国すべてが参加して2011年末に発足した比較的新しい国際組織。1990年代に米国の干渉を排除して中南米の諸問題解決を目指し設立され、大きな外交的影響力を発揮した「リオ・グループ」の流れをくむ。

 このCELACを積極的に支援しているのが中国であることは意外に知られていない。習近平・中国国家主席は就任直後の2013年6月、中米各国を訪問して以降、CELACとの関係強化に努め、2015年には中国・CELACフォーラム」閣僚会議を北京で開催した。その際、習主席は向こう10年間に中南米地域向けの投資・貿易の大幅増を表明している。

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写真)「中国・CELACフォーラム」閣僚会議 2015年1月
出典)コロンビア外務省 

 「CELACの議長国も務め、中米カリブで存在感を増している有力新興国ドミニカ共和国を自国に取り込むことで、中国は同地域で“台湾断交ドミノ”現象を起こそうとしている」というのが、前述の国連本部政治局の専門家の見方だ。

 現在、世界で台湾と外交関係を維持している国は20カ国そのうち11カ国が中南米に属するが、南米はパラグアイアだけで、残りはすべて中米カリブ諸国である。従って、「中国が中米カリブの10カ国と国交を樹立することになれば、国際社会からの台湾の完全追放が現実味を帯びてくる」(国連外交筋)というわけだ。こうした中国の外交戦略の第一歩がドミニカ共和国攻略とみていいだろう。

巻き返しに懸命な台湾 

 「ディアリオ・リブレ」などサント・ドミンゴの有力紙は先ごろ、9月の国連総会の際、中国の王毅外相がドミニカ共和国のバルガス外相と会談したことを伝えた。同共和国外務省は両外相が握手している写真を公開している。また、メキシコやキューバなど複数の外交官は、先の国連総会でドミニカ共和国が台湾を支持する旨表明しなかった点に注目すべきだ、と指摘する。

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写真)ミゲル・バルガス ドミニカ共和国外相
Photo by Equipo de Prensa MVP

 一方、台湾は中国の外交攻勢に対し、懸命に巻き返しを図っている。7月の李大維外交部長(外相)のドミニカ共和国訪問に続き、8月と10月に劉徳立・外交部次長を派遣、二国間協力の強化を訴えた。さらに10月末、ドミニカ共和国の国防大臣を台北に招待し、大型の軍用品供与を約束したと伝えられる。

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写真)李大維 台湾外交部長
Photo by 林楓

 

サント・ドミンゴ駐在の複数外交官によれば、台湾は同共和国との間で、大規模経済プロジェクト支援と引き換えに向こう数年間、外交関係を維持するとの密約を取り交わそうとしているという。

 周知のように今年6月、中米のパナマが台湾と断交、中国と国交を結んでおり、台湾は危機感を隠しきれない。国連の中南米外交筋は「対中接近を目指した馬英九・前台湾総統の時代には、中国は中米カリブ諸国に台湾断交を迫ることを控えていたが、中国と距離を置く蔡英文総統が昨年就任したのをきっかけに再び、『1つの中国』の原則を盾にした高圧的な外交に転じている」と分析する。

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写真)パナマ共和国 パナマ市
Photo by Mariordo (Mario Roberto Durán Ortiz)

中国が、台湾と国交のあるホンジュラスやニカラグアへの外交攻勢を一段と強めているとの情報もある。中米カリブを舞台に中台の外交合戦が激しさを増しそうな気配である。

トップ写真)ドミニカ共和国 首都サント・ドミンゴ
出典)GOODFREEPHOTOS  Photo by Jose Juan C.

 


この記事を書いた人
山崎真二時事通信社元外信部長

 

南米特派員(ペルー駐在)、ニューデリー特派員、ニューヨーク支局長などを歴任。2008年2月から2017年3月まで山形大教授、現在は山形大客員教授。

山崎真二

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