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.国際  投稿日:2023/4/10

「台湾断交」公約の野党候補が逆転リード―今月末、南米パラグアイ大統領選


山崎真二(時事通信社元外信部長)

【まとめ】

・パラグアイ大統領選は台湾との外交関係維持を訴える与党候補と、台湾断交・中国との国交樹立を公約とする野党候補の一騎打ち

・選挙戦終盤、野党候補が逆転リードだが与党候補が巻き返す可能性も。

・米国は先のホンジュラスの台湾断交にパラグアイが追随する形になることを懸念。

■高まる親中外交への転換望む声-パラグアイ国内

南米で唯一、台湾と国交を持つパラグアイで今月30日、大統領選挙の投票が実施される。選挙戦当初は与党候補が優勢だったが、終盤になり野党候補が逆転リードするなど接戦が展開されている。

大統領選には中道右派の与党「国民共和協会」(ANR-PC=通称コロラド党)のサンティアゴ・ペニャ元財務相、中道左派の「真正急進自由党」(PLRA)を中核とする野党連合からはエフライン・アレグレ元公共・通信相がそれぞれ出馬、両者の一騎打ちの様相。汚職、治安、雇用など国内問題も争点になっているが、最大の焦点は外交問題。

与党候補のぺニャ氏は60年余に及ぶ台湾との外交関係を維持すると訴える一方、野党連合のアレグレ氏は「当選すれば台湾と断交し、中国と国交を結ぶ」ことを公約に掲げている。同氏の公約の背景には、牛肉と大豆の主要生産国パラグアイが巨大な中国市場を確保するため、中国との国交を望む声が強まっているという事情がある。

■首都では与党候補がリード

今年2月から本格化した大統領選は当初、各種世論調査でペニャ候補が大差でリードしていたが、同月下旬ごろから、アレグレ候補が逆転するケースが増え、今月初めの世論調査ではアレグレ候補が支持率38%で、ペニャ候補の36%を上回った。

ここに来てアレグレ候補が優勢になったのは、長年政権与党の座にあるコロラド党が数々の汚職容疑で厳しい批判にさらされていることが要因の一つ。同党所属のベラスケス副大統領とカルテス前大統領はいずれも、汚職や組織犯罪容疑で米国から制裁対象に指名されている。

ペニャ候補はカルテス前大統領の側近といわれる。さらにコロラド党内がアブド現大統領派とカルテス前大統領派の対立で分裂状態にあることも、アレグレ候補に有利に働いている。パラグアイの大統領選は最多得票の候補が当選、決選投票はない。

野党連合候補のアレグレ氏の勢いがこのまま続けば大統領に選出されることになるだが、コロラド党は党内の分裂状態にもかかわらず、首都の保守層を中心に依然固い支持層を持ち、巻き返す可能性もあり、選挙結果は最後まで予断を許さない情勢だ。

■目立つ米・パラグアイ間の高官往来

先にホンジュラスが台湾断交に踏み切ったのはまだ記憶に新しい。パラグアイでも同様の事態が起きることを米国が強く懸念しているのは確か。

パラグアイ大統領選の投票が近づくにつれ、米国はパラグアイとの外交的結び付きを強めている。3月27日、ブリンケン国務長官は国務省でパラグアイのアリオラ外相と会談。国務省の発表によれば、ブリンケン長官はパラグアイが南米における米国の戦略的パートナーであると指摘、強固な二国間協力の重要性を強調するともに、台湾に対するパラグアイのコミットメントに謝意を表した。

パラグアイの現地メディアによれば、この会談で同国産品の対米輸出拡大と引き替えに「台湾への責任ある関与」が確認されたという。この会談の2日後、コーエンCIA(米中央情報局)副長官が突如、パラグアイを訪問しアブド大統領と会談した。

大統領側近は、この会談で安全保障に関する両国間協力とパラグアイ高官らの組織犯罪への関与が議題になったと述べている。さらに同31日、今度はアブド大統領が訪米、米特殊作戦軍(USSOCOM)のフェントン司令官や米南方軍(SOUTHCOM)のリチャードソン司令官との会談で二国間の防衛協力問題が協議されたもよう。今月末のパアラグアイ大統領選の行方は中台をめぐる国際情勢や米国の中南米戦略にも影響を及ぼすことになりそうだ。(了)

トップ写真:北京で、国交樹立の文書に署名し握手を交わすホンジュラスのレイナ外相(左)と中国の秦剛国務委員兼外相 出典:Photo by Lintao Zhang/Getty Images
   




この記事を書いた人
山崎真二時事通信社元外信部長

 

南米特派員(ペルー駐在)、ニューデリー特派員、ニューヨーク支局長などを歴任。2008年2月から2017年3月まで山形大教授、現在は山形大客員教授。

山崎真二

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