次の照準はパラグアイか 中国の台湾友好国切り崩し工作
山崎真二(時事通信社元外信部長)
【まとめ】
・南米パラグアイのアブド・ベニテス大統領が台湾に対し、外交関係維持のため新たな投資を求めたと英紙が報道。
・パラグアイ当局は英紙報道を否定したが、中国が台湾断交をパラグアイに迫っているとの情報が多い。
・中国市場への進出を求める国内の農業団体からも大統領は圧力を受けているもよう。
■ パラグアイ外務省は英紙報道を否定
中南米を舞台とする中国と台湾の外交合戦が展開される中、中国が次に狙うのは南米パラグアイではないかとの観測が広まっている。現在、台湾が外交関係を有する国は14カ国で、このうち8カ国が中南米カリブ地域に集中するとあって、この地域で中国は台湾友好国切り崩し工作に力を入れている。実際、台湾で蔡英文政権が発足した2016年以降、中国は中南米4カ国を自陣営に引き込むことに成功している。今では南米では唯一パラグアイだけが台湾と外交関係を維持する。そのパラグアイが台湾と断交し中国との国交樹立へ向かうとの説が最近取り沙汰されるようになった。
きっかけになったのは、9月末にパラグアイのアブド・ベニテス大統領が英紙「フィナンシャル・タイムズ」とのインタビューで台湾に対し、外交関係維持のために新たに10億米ドルの投資を求めたと語ったことが伝えられたこと。パラグアイ外務省は大統領が台湾との関係に関して条件をつけたことはないと否定、台湾外交部もパラグアイと引き続き良好な関係を維持すると表明した。
■ 中国、“ワクチン外交”で台湾断交迫る?
しかし、中南米専門家の間ではパラグアイがいずれ台湾との断交に踏み切るとみる向きは少なくない。中国と中南米関係の研究で知られるチリ・カトリカ大政治学者フランシスコ・ウルディネス氏は「パラグアイ大統領の発言は、パラグアイが他の選択肢を検討していることを示している」と述べ、パラグアイが台湾との関係を維持することを完全に約束しているわけではないとの見方を示す。中国がパラグアイに対し、台湾断交を迫っているとの情報には事欠かない。例えば、昨年南米各国で新型コロナウイルス感染がまん延した際、”ワクチン外交”で途上国への影響拡大を図った中国がパラグアイに対しワクチン提供と引き換えに台湾断交を求めたと南米の複数のメディアが報じた。パラグアイは保健相を隣国のブラジルに派遣し、現地駐在の中国外交官とワクチン提供について協議したが、保健相は中国と国交を結ぶことが条件だと通告されたという話もある。
■ パラグアイ国内でも親中へ圧力増す
パラグアイの首都アスンシオン駐在の米系企駐在員によると、中国はパラグアイ国内で親中外交への転換を要求する声が強まっているという状況を利用しようとしているふしがあるという。パラグアイ国内には主要輸出産品である食肉と大豆業者で構成する強力な圧力団体が存在。これらの業界は巨大な中国市場への進出を強く要望しているといわれる。アブド・ベニテス大統領も、国内の農業団体から中国市場へのアクセスを開くよう大きな圧力を受けていることを事実上認める発言をしている。
アスンシオンの有力紙「ABCコロル」は、パラグアイ議会では台湾からの経済支援が十分でないとし、中国への支持を打ち出すべきだと主張する議員が増えていると報じている。前述の米系企業駐在員によれば、パラグアイで来年4月実施される大統領選の行方が同国の外交に影響を及ぼす可能性があるという。全般に与党有利の情勢だが、左翼勢力は統一候補を立てる方針で、親中外交政策を掲げ戦う構えだ。中国が左翼勢力を陰で後押しするのではないかとの噂がささやかれるゆえんである。
(了)
トップ写真:コロンビアで歓迎を受けるパラグアイのベニテス大統領と大統領夫人(2022年8月6日、コロンビア・ボゴタ) 出典:Photo by Guillermo Legaria/Getty Images
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この記事を書いた人
山崎真二時事通信社元外信部長
南米特派員(ペルー駐在)、