現状維持派候補当選も台湾断交説消えず-大統領選後のパラグアイ
山崎真二(時事通信社元外信部長)
【まとめ】
・台湾と外交関係を持つ南米唯一の国パラグアイ大統領選で現状維持の与党候補当選。
・8月発足の新政権下でも親台路線を続けるかどうかが最重要テーマ。
・国内農業団体の圧力、対米関係の緊張などから中国との国交樹立に向かうか。
■ 野党乱立で予想外の与党候補大勝
台湾断交か否かを争点に先日行われた南米パラグアイの大統領選は親台外交の継続を主張する与党コロラド党の候補サンティアゴ・ペニャ氏(元財務相)が、中国との国交樹立をとなえる野党連合候補を大差で破り、当選した。ペニャ候補が予想外の大勝を果たした要因について現地メディアは野党候補の乱立でアンチ与党の票が分散したことに加え、ペニャ氏の経済的手腕への期待が高まったことなどがあると伝えている。
この結果、パラグアイは引き続き南米で唯一台湾と国交を持つことになる。ペニャ次期大統領は8月15日、正式に大統領に就任し、5年間政権を担当するが、この間台湾との外交関係を維持するかどうかは確実ではない。親中外交へ転換するとの説がくすぶり続けると予想されるからだ。その理由としては主に3点が挙げられよう。
■ 対中接近へ農業団体からの圧力は続く
第1の理由はパラグアイの国内要因である。同国は世界で有数の食肉、大豆およびトウモロコシの生産・輸出国。国内には強力な食肉、穀物業界の団体が存在し、その政治的影響力は大きい。これらの団体は、台湾との関係を維持しても大きな利益を得られないと強い不満を抱いており、巨大な中国市場へのアクセス強化を訴え続けている。新政権発足後、対中接近を要望する業界の圧力が弱まることは考えにくい。
また、パラグアイは財政赤字の増大を抱える中、ペニャ次期大統領は50万人の雇用創設や貧困対策の強化を約束しており、財源不足をいかにカバーするかが大きな課題。このためには食肉や穀物輸出拡大が不可欠となり、農業団体の要望を無視することはできないとみられる。「台湾と断交し、中国と国交を樹立するかどうかは新政権下でも最重要テーマという位置付けになる」との見方が現地の政治アナリストらの間で広まっている。
■ 対米関係悪化なら中国がつけこむ?
第2の理由としては対米関係の緊張が予想されることだ。米国務省はパラグアイ大統領選直後、ペニャ氏当選を歓迎するとの声明を出した。しかし、同時に国務省は汚職対策でペニャ次期政権と協力を進めることを期待していると表明している。この点で見逃せないのは、ペニャ氏当選の後ろ盾となったコロラド党総裁であるカルテス前大統領が、汚職とテロ組織関与の疑いで米国から制裁対象に指定されていること。
ペニャ氏はこの問題について「司法当局の判断に任せる」としているものの、「カルテス氏の強大な影響力を無視することは不可能」(現地有力紙)との見方が一般的。米国はカルテス氏の身柄引き渡しを要求しているとも伝えられる。駐アスンシオン外交筋は「カルテス氏の処遇をめぐりパラグアイ新政権の対米関係が悪化し、そこに中国がつけこみ、親中路線への転換を迫る可能性がある」と述べている。
パラグアイの外交路線転換があり得る最後の理由は、ペニャ氏自身の“変身”の可能性である。実は昨年12月、コロラド党の大統領候補を決める大統領選予備選の際、ペニャ氏が台湾断交に言及したことがある。同氏はその後、この発言を取り下げたが、自身が中国との国交樹立の経済的メリットを認識しているのは疑いないとする見方も有力。パラグアイの台湾断交・中国との国交樹立説は当分、消えそうにない。
(了)
トップ写真:パラグアイのペニャ次期大統領と会談するフランシスコローマ教皇(2023年1月20日、バチカン)
出典:Photo by Vatican Media via Vatican Pool/Getty Images
あわせて読みたい
この記事を書いた人
山崎真二時事通信社元外信部長
南米特派員(ペルー駐在)、