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スポーツ  投稿日:2018/4/16

「未成熟」が晒される時代


為末大(スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役)

【まとめ】

・有名な人にも下積みはある。

埋もれてしまう才能が発掘されるという点で現代は素晴らしい。

・しかし、未成熟段階が全部さらされているのが昔とは違う。

 

子供の頃、テレビで芸能人の人の昔の映像というのをやっていて、ああこんなに有名な人も昔は下積みがあったんだなと思った覚えがある。VTRが終わって、本人が未成熟な時代を恥ずかしそうに話していた。

スポーツ選手のセカンドキャリアを今まさに自分が生きているけれども、現役時代を振り返ってなんともアンバランスだったなと思う。勝負にさらされそこは卓越しているのだけれど、世間一般のことをあまり知らない。最近、レオンという映画を久しぶりに見て、現役時代の自分とちょっと似ているなと思ったのは、主人公のレオンがプロの殺し屋として生きながら、日常が子どもっぽく描かれているところだ。死闘を演じた選手が、選手村でゲームに夢中になりながらお菓子を食べている風景はよくある。

最近はスポーツ選手だけではなく、世の中に出て行くツールがたくさんあるから同じような現象がスポーツ以外でもあるように思う。昔であれば下積みは知る人ぞ知る世界で行われ、だんだん成熟していきながら有名になる。もちろん昔も若くして成功したりとあったのだろうけれども、今よりは数が少なかったのではないか。

埋もれてしまう才能が発掘されるという点で、素晴らしい時代だなと思う。一方で、未成熟なままいきなり世にでてそれがずっと残って行くという点で難しさも感じる。人間は成熟するプロセスでどんどんと変化していくのだろうけれども、その未成熟段階が全部さらされていることは何か昔とは違ってしまったように感じる。それも魅力なんだよという話かもしれないが。

最近はずっと、途中の話をしているように感じている。自分なりの考えがゆくゆくはまとまりそうなのだけれど、今はその途中で、途中なんだけど喋らずにはいられないからしゃべっているという感じに近い。

(この記事は2017年8月19日に為末大HPに掲載されたものです)

トップ画像:イメージ図 出典 Pixabay photo by composita


この記事を書いた人
為末大スポーツコメンテーター・(株)R.project取締役

1978年5月3日、広島県生まれ。『侍ハードラー』の異名で知られ、未だに破られていない男子400mハードルの日本 記録保持者2005年ヘルシンキ世界選手権で初めて日本人が世界大会トラック種目 で2度メダルを獲得するという快挙を達成。オリンピックはシドニー、アテネ、北京の3 大会に出場。2010年、アスリートの社会的自立を支援する「一般社団法人アスリート・ソサエティ」 を設立。現在、代表理事を務めている。さらに、2011年、地元広島で自身のランニン グクラブ「CHASKI(チャスキ)」を立ち上げ、子どもたちに運動と学習能力をアップす る陸上教室も開催している。また、東日本大震災発生直後、自身の公式サイトを通じ て「TEAM JAPAN」を立ち上げ、競技の枠を超えた多くのアスリートに参加を呼びか けるなど、幅広く活動している。 今後は「スポーツを通じて社会に貢献したい」と次なる目標に向かってスタートを切る。

為末大

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